検査と技術 23巻13号 (1995年12月)

病気のはなし

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新しい知見

 サリン中毒:サリンガスによる中毒に関する多症例の臨床報告は,最近のオウム真理教による集団テロ事件までなかった.これらの不幸な事件で明らかになったことは,以下のような点であった.

 重症サリンガス中毒では極めて早期に呼吸停止をきたす.血漿コリンエステラーゼ値は重症例では著明に低下するが,中等もしくは軽症例では,必ずしも臨床症状と相関しない.他の有機リン剤中毒の一部で認められる,症状の遅発や再燃はみられない.また,これらの事件は,阪神大震災とともに,日本において集団災害時のための医療体制整備の重要性を再認識させる契機となった.

検査法の基礎

肺炎球菌の感受性検査 畠山 靖子
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新しい知見

 肺炎球菌は細菌性肺炎,化膿性髄膜炎,敗血症および中耳炎,副鼻腔炎,心内膜炎などの重要な原因菌である.本菌による感染症は従来よりペニシリンG(PCG)が第1選択剤とされていたが,ペニシリン剤に中等度耐性および耐性を示し,さらに他のβラクタム剤にも耐性を示す耐性株の増加が臨床上の問題となっている1〜10).細菌検査室の業務として迅速・正確な薬剤感受性成績が要求される.ここでは耐性株の検出法を中心に,本菌に対する薬剤感受性について述べたい.

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新しい知見

 結核菌検査は,従来からの培養を基盤とした検査法から培養期間の短縮化は若干されたもののほとんど進歩していないのが現状である.したがって臨床への貢献はあまり期待できず,迅速性の点で唯一顕微鏡検査がその役割の一端を果たしているにすぎない.しかし,顕微鏡検査は感度に若干の問題があり,また検査する技師の経験にも左右されやすい.最近急速に進歩した遺伝子診断技術は,結核菌を迅速にまた高感度に証明することが可能で,多くの研究がなされ,現在では一部キット化や市販化されるに至り,また保険収載される検査もみられるようになった.

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新しい知見

 小腸様ALP(例えばKasaharaアイソザイムを含む小腸バリアント)1)は,正常ヒト腎や膵/肝組織のほか肝硬変,肝細胞癌,慢性腎不全および糖尿病の血中で増加する2).結論として正常小腸型ALPとの差異は,主としてその糖鎖の違いとGPI-アンカーの有無に基づく.

技術講座 生理

眼球運動記録法 小松 崎篤
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新しい知見

 ENGにより水平・垂直眼球運動は定量的に行われるようになった.このことは,自発眼振,誘発眼振,異常眼球運動などの記録が客観的かつ定量的に可能となり,病態の把握や分析に役だっている.またENGでは,閉眼や暗所開眼など観察困難な状態での眼振の有無も知ることもできる.

マスターしよう検査技術

消毒剤の効果判定 佐藤 智明
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はじめに

 消毒薬は感染防止対策のうえで欠くことのできない薬剤であり,臨床微生物検査室に消毒剤の効果判定が依頼されることもしばしばある.しかし,わが国では公的機関による消毒剤の効果判定の標準法はまだ確立されていない.試験法には多くの方法があるが,それぞれに特徴があり,一法ですべての場合についての効果判定が得られるものではないといってもよい.古くからよく使用されてきた方法に石炭酸係数測定法がある.本法は試験菌として腸チフス菌,黄色ブドウ球菌を用い,作用時間が5分で生存,10分で死滅する消毒剤と石炭酸の希釈倍数の比を求めるため,現在,院内感染などで問題となる多くの菌種に対する殺菌効果や,手洗いなどの短時間作用の場合の効果について推定ができないなどの問題がある.

 実際に検査室で実施する場合には,文献に挙げた各種の試験法を参考に,各施設での目的に合った方法を実施すればよいと考える.今回紹介した方法は,当検査室で実施している細菌懸濁試験法である.ほかにフィールド試験として,消毒剤散布や薬液モップでの清掃後のふき取り検査なども実施している.

画像でみる生体情報・12

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 “眼科と画像”は切っても切れない関係にあり,一般的な画像診断法に加え眼底写真撮影など隈科独特の検査法が使用されている.本稿では,最近新しい方法(機械)が導入された蛍光眼底検査法と超音波検査法について疾患を例にとり解説する.

生体のメカニズム 体液調節機構・12

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はじめに

 リン(phosphorus;P)は,①リン酸塩やリン脂質の形で骨や細胞膜を構成する,②細胞内における最大濃度の陰イオンとして存在する,③ATPを構成し細胞内での嫌気的リン酸化によるエネルギー供給に寄与する,④尿中にリン酸塩として排泄され,尿酸性化による生体の酸塩基平衡を調節するなどの重要な役割を担う元素である.生体内ではリン酸Pi(ホスフェート)の形で存在する.

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はじめに

 大動脈弁疾患は狭窄症と閉鎖不全症に大別され,いずれも特徴的な心エコー図および心機図所見を示す.本稿では,まず正常大動脈弁例について述べ,次に大動脈弁疾患について代表例を呈示しながら解説する.

わかりやすい学会スライドの作りかた

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 学会の一般演題の発表形式は,スライド,OHPによる口演か,示説である.このうち示説発表すなわちポスター発表は,専門分化した研究内容を効果的に発表できるので,近年は多くの学会が採用している.

 ここでは,分析系のポスター発表を例に特徴,作成要領・留意点などについて示す.

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はじめに

 学会発表するためにはまず新知見があること,これが第1のポイントである.これはポスター発表においても決して例外でない.

 次に,当然のことながら,ポスターの作りかたは各学会で少しずつ異なっている.あらかじめ詳細をよく確認してから準備を始めること.

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 糖尿病性腎症は,糖尿病患者の予後を大きく左右する重大な合併症である.従来,腎症の診断は,試験紙法などによる尿蛋白陽性をもって行われてきたが,その感度は30mg/dl(300mg/日)程度であり,これは腎病変が不可逆的となった顕性糖尿病性腎症の時期に当たる.腎症の発症と進展の予防には,より早い時期の診断が必要であり,尿中マイクロアルブミンの測定が行われるようになった1).尿中アルブミンとトランスフェリン値との間には強い相関関係があり,尿中トランスフェリンの測定は,アルブミンの測定と同等の価値があると考えられている.

 トランスフェリンは,分子量79,570ダルトン(Da)とアルブミン(69kDa)よりやや大きい1本鎖ポリペプチドで,2つの相同性を有した領域からなり,それぞれに鉄結合部位を1つ持つ.

卵巣腫瘍マーカーの意義 根岸 能之
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 卵巣腫瘍は解剖学的に腹腔内に位置するため,術前にその腫瘍の病理学的性質を正確に把握することが困難である.そのうえ,silent diseaseといわれるように早期にはほとんど自覚症状がなく,発見時すでに進行している症例が多い.卵巣癌の診断には内診,超音波,CTスキャン,MRIなどによる画像診断と腫瘍マーカーを併用しており,その結果,診断率の向上が得られている.

 卵巣腫瘍マーカーの臨床的有用性としては,以下のものが挙げられる.

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[1]HCVの遺伝子型

 HCVは多数の分離株の塩基配列およびそれから推測されるアミノ酸配列の解析より,大きく6つの遺伝子型〔グループ〕に分けられ,グループ内では少なくとも2つ以上のサブタイプ〔亜型〕に分類される1).これまで,HCVの分類と命名法は各研究者により異なっていたが統一されつつある(表1)2).わが国では遺伝子型1HCV(グループ1HCV=G1-HCV)および遺伝子型2HCV(グループ2HCV=G-2HCV)がほとんどを占めている.G1-HCVとG2-HCVにおいては遺伝子構造上で同じフラビウイルス科ではあるが,日本脳炎ウイルスと西ナイル熱病ウイルスのようにウイルス種が異なるほどの大きな違いがあるというウイルス学的な差が見いだされ3),またウイルス蛋白質の発現効率やインターフェロン(IFN)治療中のRNA量の減少速度に大きな差があるなどの生物学的性質も異なっていることが示唆されている4)

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[1]総分岐鎖アミノ酸/チロシンのモル比

 劇症肝炎や肝不全など重篤な肝障害時には肝におけるアミノ酸の代謝は著しく異常となり,血漿中の芳香族アミノ酸(aromatic amino acids;AAA)のフェニルアラニン(Phe)およびチロシン(Tyr)は上昇する.一方,このとき,主として筋組織で代謝される分岐鎖アミノ酸(branched chain amino acids;BCAA)のバリン(Va1),ロイシン(Leu),イソロイシン(Ile)の血漿濃度は低下する.Fischerは肝性脳症時には総BCAA対AAAの比が低下すること,アミノ酸輸液によりアミノ酸インバランスを補正すると脳症が軽快することを報告した1).その後,総BCAA/AAA比は健常者に比べて,急性肝炎→慢性肝炎(活動性)→肝癌・代償性肝硬変→非代償性肝硬変→劇症肝炎の順に低下し,肝実質細胞障害の重症度と併行することが確かめられた2).これにより総BCAA/AAA比は重症の肝性脳症障害の評価と,肝性脳症の治療のために行うBCAA輸液療法の指針として利用されてきた.

 血漿中のアミノ酸は従来,アミノ酸分析計(高速液体クロマトグラフィー;HPLC)で数時間を用いて測定されてきた.

Return cycle 古川 泰司 , 西村 昌雄
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 Return cycle(復元周期)とは,体表面心電図の用語として用いる場合,一般的にはその種類を問わず期外脱分極から基本脱分極までの時間間隔を指すと考えられている.しかしながら,臨床電気生理学的検査による洞機能検査法が標準化し,期外脱分極と次の洞結節性脱分極との時間間隔を決定する機序が理解されるようになってからは,しばしば心房期外収縮から後続の洞性脱分極までの間隔を指す用語として用いられている.

 Return cycleの実例を図1に示す.基本洞心拍(A1)の後に,基本洞周期(A1-A1)より短い連結期(A1-A2)で心房期外刺激(A2)を加えると,その次に生じる洞性興奮(A3)は基本洞周期よりも幾分遅れて発現する.その際のA2-A3をreturn cycleと呼ぶ.期外刺激が拡張期の終わりごろに加えられると,この刺激が洞結節に逆伝導する前に洞結節はすでに脱分極を開始しているので,次の洞性脱分極は基本洞周期後に発現する.このとき,return cycleは連結期が基本洞周期よりも短い分だけ延長する.他方,期外刺激がこれより短い連結期で加えられると,本刺激は洞結節に進入し,結節細胞を脱分極させ,洞周期の更新を図る.洞結節細胞はこの脱分極の後,基本洞周期と同じ速度で第4相脱分極を生じるが,基本周期そのものは不変である.

ラボクイズ

問題:細菌

11月号の解答と解説

明日の検査技師に望む

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 最近の医療機器の進歩は著しい.特に測定機器には目をみはるものがある.測定感度がグラムからミリグラムのレベルどまりがナノグラム,ピコグラムとなり,アイソトープやPCRで,増幅を重ねての測定となる.目に見えないものの極微量の測定の測定値の数字がデジタルで出てくるのは快感でもあり恐怖でもある.とにかくデータは出てくる.それを客観的に評価できることが,ますます大事となってくる.

 ハイテク機器は年々進歩し,21世紀にもさまざまな姿で現れてくる.操作が複雑であれ,ワンタッチであれ,機器の測定理論が難解になれば,たとえ完全に理解していたとしても,ともすれば機器に気遅れして,機器のいいなりになり機械の出したデータそのまま何も考えずにうのみになりやすい.ぜひそのようなことないように願いたい.すべての操作過程にももちろん理論にも飲まれず,飲んでいてほしい.測定過程のどこかで微妙な回路の異常でも,そのまま機器は澄まして誤ったデータを吐き出してくる.それが見抜かれなければ,依頼者は間違った結論を出してしまう.ハイテクの仕掛けてくるわなにはまることなかれ.

けんさアラカルト

細菌検査のシステム化 三澤 成毅
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 細菌検査のシステム化は他の分野の検査と比較してその構築が困難といわれます.他の検査システムとは大きく異なり,1つの依頼に対する成績が必ずしも1つではない,すなわち,複数個(菌種)の成績が発生することがあるからです.さらに,検出された菌種によって感受性検査に用いる抗菌薬の種類や数が異なることもシステムを構築するうえで苦慮する点です.

 ここでは細菌検査のシステム化に当たって留意すべきポイントを挙げて解説することにします.

トピックス

染色体異常と癌遺伝子 阿部 周一
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はじめに

 染色体の構造異常によって,その切断点にある癌遺伝子(c-onc)や関連遺伝子が構造変化を受けて発現したり,癌抑制遺伝子のように,正常対立遺伝子が欠けることにより変異した対立遺伝子が発現して,細胞が悪性化すると考えられる例がヒトの悪性腫瘍において近年集積されている.それらの染色体異常と関与する遺伝子の変化は,病型や組織型と密接に関係することが多いので,発癌機構解明の手がかりになると同時に鑑別診断のマーカーとしても臨床上有用である.

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 腫瘍は,種々の遺伝学的変化の蓄積により発生してくることが知られている.これらの遺伝学的変化には,染色体レベルの大きな変化(例えば染色体の欠失や増加など)から遺伝子配列レベルの小さな変化(例えば遺伝子配列の欠失や増幅,点突然変異など)が含まれる.

 染色体レベルの大きな変化の検出には,従来より培養後得られた分裂期染色体の核型分析が行われている.しかし,固形腫瘍の場合,細胞培養により分裂期染色体を得ることが比較的困難であり,得られたとしても複雑な染色体異常を示すことが多く,解析の難しいことが多い.また,遺伝子配列レベルの小さな変化を検出する方法としては,Southern blotting, RFLP法,PCR-SSCP法などが知られている.しかし,このような分子遺伝学的方法は,あらかじめ検索したい遺伝子あるいは染色体領域が限定されており,それ以外の大部分の領域は見落とされているという弱点がある.

体表面微小電位検出法 原 正壽
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 体表面微小電位すなわちlate potential(LP)は,致死的心室不整脈の評価法として近年臨床で応用されるようになってきた.LPは心室不整脈の原因に関連するQRS終末部からST部(図1)にまで及ぶ微弱な持続電位(delayed potential)を体表面から記録したものである.LPは健常人に検出されることは少ない.これに対しLP陽性者は,難治性の心室不整脈を伴い,さらには突然死する確率が高いとされている.この微小な電位を体表面から記録するには,単純に増幅しても筋電図や外部ノイズが混入することにより記録が難しいことから,以下に示す検出法を用いる.

 LPの検出法には,周波数解析によるfrequencydomain法と実時間解析であるtime domain法とがあり,後者が現在広く用いられている.

けんさ質問箱

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 当院では整形外科の手術で自己血輸血を行っていますが,先日ドクターから最終的確認のために自己血もクロスマッチをするよう依頼を受けました.事務的なミスを回避するのが目的だと思うのですが,ほかに意義があるのでしょうか.また検査室としてどう対応するべきなのでしょうか.

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 尿沈渣中に前立腺由来の上皮の混入が考えられる場合,どのような形態をしていますか.精神科の尿沈渣を見ていると,精子が出ているものが多く,移行上皮が背景に多少みられるのが普通の沈渣の性状だと思うのですが,尿細管上皮が背景に1/1-5HPFほどみられるものが多いので,私が前立腺由来の細胞と誤って,鏡検しているのではないかと思い質問しました.なお明らかに前立腺由来と思われる脂肪顆粒細胞が出ていることもあります.

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 子宮頸部発生の腺癌の中に細胞異型が軽度で組織学的悪性基準を十分に満たしているとはいいがたい極めて高分化な腺癌がある.これは悪性腺腫(adenoma malignum)と呼ばれている.腺腫とは名ばかりで,浸潤性腺癌である.悪性腺腫は日常の細胞診業務の中で見落とされやすい(false negative)癌の1つである.したがって,この悪性腫瘍の臨床病理学的な事項を十分理解したうえで診断することが大切である.子宮頸癌取扱い規約の中で「悪性腺腫adenoma malignumとは細胞異型が軽く,形態的には正常からの逸脱の少ない極めて高分化の腺癌とみなされる(minimal deviation adenocarcinoma).その診断には,時に異常核分裂像を認めること,しばしば不規則な外方突出angular outpouchingを示すこと,さらに既存頸管腺領域の深さを明らかにこえた浸潤のあることが根拠となる.」とされている(図a).

 子宮頸部発生の腺癌の組織分類は,a)内頸部型腺癌adenocarcinoma endocervical type, b)類内膜腺癌endometrioid adenocarcinoma, c)明細胞腺癌clear celladenocarcinoma(類中腎腺癌mesonephroid adenocarcinoma),d)腺様嚢胞癌adenoid cystic carcinomaに分けられている.

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基本情報

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検査と技術
23巻13号 (1995年12月)
電子版ISSN:1882-1375 印刷版ISSN:0301-2611 医学書院

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