Neurological Surgery 脳神経外科 7巻8号 (1979年8月)

職に順う 平川 公義
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 "When I do something right no one remembers, when I do something wrong no one forgets".アメリカの観光地では,このような標札がよく土産物屋で売られている.ひやかし半分に買い求めて,壁に飾ってあるのだが,考えるほどに,われわれ医師の,あるいは脳神経外科医の立場をよく表わしているではないか.仕事は,診療,研究,教育を問わず,職務の結果は良くて当り前であり,悪ければ,自分自身の気持は別にして,せめたてられる.手術の結果が悪ければ,最近の風潮として,争いに巻込まれる.

 実際,このような争い事の相談を,毎月のように,持ちかけられて閉口している.最高裁公報課の調べによれば,医療事故による争訟継続数は,昭和44年の231件から,47年の452件,49年618件,51年は848件とうなぎ昇りに増加の一途をたどっている.先年,American Association of Neurological Surgeonsで,医療事故に関する調査が行なわれ,2,200のアンケートに1,400の回答が得られ,約50%の脳神経外科医が訴えられていることが判った(Clin. Neurosurg.,25: 673,1978).事故数は増加しており,収束の気配はない.その内容は脊髄疾患が過半数を占めるが,危険因子分析によれば,手術の結果が悪いということが第1位であった.

総説

脳血管平滑筋の薬物反応性 戸田 昇
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Ⅰ.はじめに

 脳循環に対する薬物作用とその機序を正しく把握することは,脳循環異常の治療および予防に役立つだけでなく脳循環の生理的調節機構を知るうえにもきわめて重要である.しかるに,脳の循環動態を生体位で正しく記録し,薬物作用を定量的に血管反応と代謝の両面から分析してその機序を明らかにするのは容易ではない.ここ数年来脳の血管を摘出し,その平滑筋の機能特性を明らかにする研究が急速に進展した.本稿では,脳血管平滑筋の神経支配と薬物反応性を定性定量両面よりとり上げるとともに,薬物作用機序に関するこれまでの報告の一端を紹介する.必要に際して,脳以外の臓器組織の血管の反応と比較することによって脳血管平滑筋の機能的特徴をうきぼりにしたい.最近出版された本題に関係した綜説19,35)を参考にされたい.

 血管平滑筋の機能を薬理学的生理学的に定量的に検索するにはふつう,以下の3つのいずれかの方法がとられる.(1)摘出血管をラセン状に切開し矩形条片標本(helical strip)を作成してその張力変化を記録する9).動脈の中膜平滑筋はゆるいラセン状の走行を示すことがヒトの脳動脈で報告されている53).(2)摘出した血管の符腔に2本の細い金属線を挿入し,血管径の増大と減少による張力変化をこの線を介して測定する(ring preparation)7,20).(3)摘出血管片を定圧ないし定流で灌流し,それぞれ流量ないし灌流圧の変化を測定する79)

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Ⅰ.はじめに

 新生児死亡の原因として,出産外傷に伴う頭蓋内出血,とくに硬膜下出血の頻度は高い.しかし新生児では,乳幼児に通常みられる円蓋部橋静脈損傷による硬膜下出血よりも,テント裂傷による硬膜下出血の方が多く,後頭蓋窩出血による脳幹圧迫から重篤となる.従って従来,前者に対しては大泉門から硬膜下穿刺を行い,診断・治療をなし得ても,後者に対しては,診断をなすすべなく,徒らに拱手扼腕,死を待つのみであった.たまたま発見し得た遷延例に対してのみ,救命したとの報告があった.

 しかるに近来,CTスキャンの導入により,血腫の存在を知ることは容易となり,救急治療への期待を抱かせ得るのであるが,しかしCT像の解釈も,新生児硬膜下出血に関する知識なくしては正確な診断は望み得えず,また良い治療も期待し得ないのである.

Current Topics

Flowcytometry 高倉 公朋
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Ⅰ.はじめに

 分裂,増殖を行うすべての細胞を取り扱う生物学の分野では細胞の生長解析,とりわけその核酸量(DNA量)を正確,かつ迅速に測定することが重要である.

 従来この種の研究は顕微分光光度計が利用されて,1個1個の細胞について顕微鏡下で測定を行っていたが,これはきわめて能率の悪い測定法であった.また腫瘍細胞の生長解析を行うに当っては,3H thymidineを使ってautoradiographyでDNA合成期(S期)にある細胞へのisotopeの取り込み実験からS期細胞比率を求め,顕微鏡下で分裂期(M期)にある細胞数を測定して,これらの結果をもとに細胞の生長解析を行ってきたのであるが,G1期,G2期の細胞を直接計測することはできなかった.

海外だより

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 4月下旬にLos Angelesで第47回のアメリカ脳神経外科学会が開かれた.1973年にも同地同ホテル(Century Plaza Hotel)で開催されたが,当時と違うことは会員の数がほぼ倍になっていること.したがって参加者も倍化しており,Century Plaza Hotelだけでは,参会者をとても収容しきれず,近辺の7,8のホテルに半数以上の参会者は分散させられた.

 この学会の開かれたLos AngelsのCentury Cityというのが変わっていて,大きなビルディングが,にょきにょきと立っている,なんとも殺風景な町で,会場とその他のホテルを連絡する公共交通機関はなく,学会事務局で用意したバスでしか他のホテルからは通えず,サンパウロでの国際学会の時よりはましではあるが,学会開催には不便この上ない場所であった.また土地柄からも,ホテルの周囲にはまったくなにもなく,どこかレストランで夕食でもなどという気を起こすとタクシーでも使わないかぎりどこへも行けず,皆不満たらたらの場所であった.全く学会場にまじめに出席するか,自分のホテルにじっとしているかを取捨選択することを強いられるような場所である.

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Ⅰ.はじめに

 脳腫瘍の髄液細胞診の歴史は今世紀初頭に逆上るが,それ以来現在に至るまで,種々の方法が開発されて来たが,必ずしも満足すべき結果が得られたとは言えず,広く普及するには至らなかった.特にCT出現後の現在では,病歴,神経学的検査およびCTにより,腫瘍の有無と局在に関しては,ほぼ100%診断が可能である.ただ,CTの弱点は,病変の特異性を識別する能力が必ずしも高くないという点にある.

 われわれは,CTの時代に,髄液細胞診が脳腫瘍の補助的診断法として,どの程度有用であるかという点に着目しつつ,cytocentrifugation(細胞遠沈法)の原理を応用したCytospinを用いて髄液細胞診を行った.

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抄録

 CT scanの臨床への応用がなされて以来,従来の神経放射線学的診断法は大きく変化した.それとともに脳腫瘍における診断のアプローチもCT scanを中心として変化してきた.しかしながら,CT scanにおける腫瘍の組織学的診断はまだ確立されたものではなく,未だ漠然とした鑑別診断の域を脱し得ない.その理由として,1つはCT scanにおける良性及び悪性腫瘍の所見にoverlapしたものが多いこと,そしてもう1つの理由として,各腫瘍の所見でいわゆる"典型像"に関しては一応の見解の一致がみられるが,いくつかの例外があり,今後さらに症例を重ねる必要があること,などがあげられよう.

 我々は,CT scanによる脳腫瘍の診断に関していくつかの観点から検討してきたが,今回特にその悪性度の診断について,病理学的に診断さらに分類されたグリオーマの100例のCT scanの所見を分析した.これらの結果より,グリオーマの悪性度を高率に暗示するものとして,1)post infusion homogenecity(central low densityのあるものでは,壁の厚さと不規則性),2)peritumoral edema,3)腫瘍の辺縁の不規則性,があげられる.また悪性度と相関性の乏しいものとして 1)preinfusion density,2)contrast enhancelnent,があげられ良性・悪性にoverlapする所見として注意する必要があると思われる.

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Ⅰ.はじめに

 脂肪塞栓症候群は外傷,ことに骨折の重大な合併症であり,主として整形外科領域においてよく知られ報告も多い.一方,本症候群はその60-70%3,9)と高率に脳症状を伴い,しかも外傷後一定のfree interval(無症状期)を経て発症してくるので,多発外傷例においては頭蓋内血腫との鑑別が重要であり,その意味において脳神経外科医も本症候群を認識しておく必要がある.

 脂肪塞栓症候群は欧米において約1世紀前より多くの報告があり,決して稀な疾患ではないが,本邦においての報告は少なく,50例前後の症例報告を見るのみである.また,神経学の分野よりの本症候群の報告は欧米においても少なく5,17,18,33),本邦では金谷10),中山11),山城ら27)の6例と荒木1)によるもののみであり,神経学的側面からの検討はいまだ充分になされてはいない.著者らは剖検例を含む3症例を経験したので,本症候群の臨床診断,特に脳症状について検討を行い報告する.

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Ⅰ.はじめに

 血行性・転移性脳膿瘍の原因として,従来,菌血症,敗血症が主な原因として挙げられているが,これらから如何にして,脳膿瘍が形成されるかについては未だ不明な点が多い.

 Molinari4)らは実験的に塞栓により脳軟化巣を作り,頸動脈から細菌を注入して脳膿瘍を作成することに成功している.この事実は,脳循環に菌が迷入するだけでなく,塞栓子による脳の虚血巣が生じることが脳膿瘍の発生に必要であることを示唆している.このことから,血行性脳膿瘍の発生には,宿主側に脳の虚血巣の存在が必要な因子の1つと考えられる.

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Ⅰ.はじめに

 頭蓋狭窄症の手術は,脳圧迫によって生ずるであろう知能発育障害の予防と頭蓋変形を矯正することを目的としている8,9).この目的にそって古くから諸家により種々の術式が考案されている1,2,3,5,7,14).その主流を占めているのは線状骨切除術であり,この場合の骨断端の再癒合を防止するためにいくつかの工夫がなされている4,7,11,12)

 われわれも,従来頭蓋狭窄症に対して,この線状骨切除術を行い,骨の再癒合防止のためにはポリエチレンフィルムなどを用いてきた.しかし,頭蓋変形の矯正が十分でなく,あるいは,術後に骨切除部辺縁が異常に膨隆してきたりして必ずしも満足すべき効果を得ていない.

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Ⅰ.緒言

 小児に原発性脊髄腫瘍が発生することは比較的稀で4),その組織像からみた発生頻度は成人と異なる傾向を有している.すなわち,神経膠腫,神経芽細胞腫,類上皮腫,皮様嚢胞が多いといわれている10).われわれは,10歳女児の胸髄硬膜より発生したきわめて稀なmesenchylnal chondrosarcoma(間葉性軟骨肉腫)を経験したのでここに報告し,あわせて文献的考察を加える.

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Ⅰ.緒言

 Bramwell3)により初めて報告された交叉性失語とは,利き手と同側の脳半球の障害により生じた失語であるが,純粋な右利きの交叉性失語の報告例はかなり稀であり,本邦においても,井村ら8)によって第1例が報告されて以来,局在の明らかな症例は10例に満たない.現在までの報告例は主として剖検でその局在を確認しているが,失語症状を呈している時期との時間的ズレの存在は,その結論に微妙な影響を与えているかもしれない.近年CTスキャンにより,症状を呈した時期との時間的距離なしに,剖検所見にほぼ準じた所見で得ることができるようになり,失語症のCT上の局在に関する報告も散見されるようになった6,14).最近われわれは,右利きの交叉性失語の症例を経験したので,そのCT像に検討を加えて報告するとともに,若干の文献的考察を加えて,右利きの交叉性失語のCT像について検討する.

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Ⅰ.はじめに

 総頸動脈または内頸動脈結紮によって一部の脳動脈瘤治療がなされてきたことは周知の事実である.しかし硬化性病変による内頸動脈狭窄または閉塞例において,逆に脳動脈瘤が存在し破裂した症例が報告されている14).著者らは一側の内頸動脈閉塞と破裂脳動脈瘤をもつ多発性脳動脈癌例2例に動脈瘤直達手術と閉塞側浅側頭動脈(STA),中大脳動脈(MCA)吻合術を施行する機会を得た.

 これらの症例の経験をもとにWillis輪発達様式と瘤発育および破裂の関係,瘤破裂後の頭蓋内環境や脳血管攣縮などによる脳血行動態の変化が内頸動脈閉塞下でどのように加重されるかなど,これらの症例の病態とそれに基づく外科治療上の問題点を文献的考察を加えて述べたい.

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Ⅰ.はじめに

 深部真菌症のうち中枢神経罹患率の最も高いものとしてcryptococcosisがあげられる.近年,化学療法や副腎皮質ホルモンの普及にともなってcryptococcosisそのものはさほど稀な疾患ではなくなりつつあるが,今回著者らは4年間に4回の症状の増悪,緩解を繰り返したcryptococcus感染による脊髄肉芽腫性くも膜炎の1例を経験した.本症例には,V-P shuntおよび2回の椎弓切除術が施行され,症状の緩解導入に有用であった.特異な経過をたどった本症例について報告する.

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Ⅰ.はじめに

 頭蓋および頭蓋内に発生する軟骨腫は,まれな腫瘍であり,頭蓋底部に好発する.源発性頭蓋底軟骨腫の本邦における報告は,現在までに文献例13例1,6,8,10-12,17-19,22,23),学会報告例7例をみるにすぎない.

 今回われわれは,動眼神経の単独麻痺を呈した左傍鞍部軟骨腫,および外転神経の単独麻痺を呈した右錐体骨尖部軟骨腫の2症例を報告し,過去の報告例中,臨床症状,検査所見などの記載のある81例(欧米66例,本邦15例)と自験例2例をあわせた83例の分析をとおして,頭蓋底軟骨腫の臨床症状,診断につき,若干の考察を加える.

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Ⅰ.はじめに

 脈絡叢乳頭腫は原発性脳腫瘍の0.5%前後9),小児脳腫瘍のうちでも1%(Koos,1971)6)にすぎない比較的稀れな腫瘍とされているが,そのなかに,時として組織学的に特異な悪性像を示し,周囲組織へ浸潤を示すもののあることが知られている,これは悪性脈絡叢乳頭腫malignant papilloma of choroid plexus,あるいは脈絡叢癌choroid plexus carcinoma(Rokitansky,1844)12)と呼ばれている,しかし,従来報告された症例のなかには,単にくも膜下腔への播種性転移subarachnoid seedingを示したというだけで,安易にmalignant papillomaという呼称が用いられてきたきらいがある(Zülch,1957)18),Dohrmann & Collias(1975)によれば,これまで60例余が本症として報告されているが,その多くは病理組織学的診断基準に問題があり,Russell & Rubinstein(1971)14)の診断基準に合致したものは22例にすぎないという.

 著者らは,最近,末期に脛骨転移をみたきわめて興味ある本症の1例を経験したので,若干の文献的考察を加えて報告する,なお,本例は生後2カ月時に発症,従来の報告例中最年少例である.

基本情報

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Neurological Surgery 脳神経外科
7巻8号 (1979年8月)
電子版ISSN:1882-1251 印刷版ISSN:0301-2603 医学書院

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