Neurological Surgery 脳神経外科 44巻9号 (2016年9月)

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 脳神経外科医の諸兄姉は,早朝から夜遅くまで診療・研究・教育に没頭する生活を,ほとんど休みなしに長期間続けたご経験があると拝察いたします.また,その生活が現在進行中という方も少なくないのではないでしょうか.本邦の脳神経外科医療のかなりの部分は,個々の脳神経外科医の粉骨砕身の努力によって支えられ,成り立ってきたといっても過言ではないでしょう.

 私もこういった生活を送る一方で,ここ数年,脳神経外科医のquality of life(QOL)に思いを馳せるようになりました.私がここでいうQOLとは,一般にいう患者さんのQOLとは異なります.脳神経外科医としてのQOLにはさまざまな内容を含み,1人ひとり意味合いが異なり,目標も目的も実生活の展開もそれぞれ希望が異なることでしょう.「各人が目標とする,あるいは理想とする脳神経外科医としての生活に近づくこと」をQOLの高い生活と定義できると考えます.ここでいうQOLは経済的なことではなく,脳神経外科医としての活動上の希望を指しています.医局員の方向性に責任をもつ立場になって,まず考えたのは彼ら,彼女らのQOLを高め,可能な限り希望に即した脳神経外科医としての人生を歩んでもらうということです.

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Ⅰ.はじめに

 脊髄髄膜瘤は胎生期の脊髄を形成する過程で発生する先天異常であり,患者は下肢麻痺,排尿排便障害などの神経障害を後遺したまま成長・発達する.さらに水頭症やキアリ奇形,脊髄空洞症,脊椎変形,褥瘡による皮膚損傷など,合併症や派生する医学的問題も多岐にわたる.1950年代以前には漏出する髄液の感染や進行する水頭症によって乳児期に死亡する患者が多く,生存率は10〜12%と低かった29).そのため1970年代までは治療後に重篤な後遺障害が予測される場合には,意図的に治療の対象としないこともあった(選択的治療)30).しかし1950年代後半に開発された水頭症治療のためのシャントシステムや抗菌薬の使用,カテーテル排尿法の導入などにより生命予後が向上すると,出生した脊髄髄膜瘤患者はすべて治療対象とされるようになり,現在に至っている(非選択的治療)33).最近では1歳時点で92.8%,20歳時でも85.2%が生存しており50),いまや脊髄髄膜瘤患者の85〜90%は成人になることが期待できる18)

 長期生存した脊髄髄膜瘤患者が成人後に広く社会に活動の場を求めるようになったこと,および医療のパターナリズムから脱却して患者の自己決定権を重視する時代の流れもあって,近年は脊髄髄膜瘤の治療結果について,医療者の視点で生存率や身体機能(画像および神経学的所見)を評価するばかりでなく,患者・家族が「患者の視点」で主観的,質的に自らの状態を判定する,生活の質(quality of life:QOL)評価も重視されつつある(Fig.1).治癒することを望めない慢性疾患では,治療のゴールは生存ではなくQOLの維持,改善にある27)とも言われる.医療評価を目的としてQOLを用いる場合は,「健康関連QOL」を測定・活用することが望ましい(Fig.2)23).健康関連QOLには,幸福度,生きがいなど,健康以外の要因によって大きく左右される要素は含まれない.QOLと満足度もお互いに関連性をもちうるが,それぞれ異なる概念として捉えられることが多く,独立して測定するのが望ましい.脊髄髄膜瘤患者のQOLに影響するさまざまな要素を認識,把握し,脳神経外科の立場で患者のQOLの改善を図ることは,最終的に患者,家族の治療に対する満足度を高め,疾患を受容することにつながると思われる.

 本稿では,まず脊髄髄膜瘤の病態について概説し,治療後の機能予後の現状を示す.その後,最近の脊髄髄膜瘤についてのQOLを指標とした評価結果と,そこに関係する要素を提示して,患者,家族のQOLと満足度を高めるために重要と思われる治療およびケア上の注意点について検討する.

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Ⅰ.はじめに

 脳内出血に対する神経内視鏡手術は,Auer2)が1985年に報告し,1989年にはrandomized control trial(RCT)によりその有効性を示した3).2000年にはNishiharaらが合成樹脂製の透明外筒を開発し,硬性鏡を使用して,止血および吸引が可能な吸引管を開発し,神経内視鏡下における画期的な血腫除去法を報告した8).一方で,彼らは,透明外筒により術野の視界は確保されたものの,外筒の先端が血腫のどの位置にあるのかを挿入した外筒の深さと角度により理解しなければならないと指摘している.

 最近,脳内出血のみならず,脳深部の腫瘍に対してViewSite(Vycor Medical)などが使用され,良好な結果を得た報告が散見されるようになった5,10).これらの報告を受けて,今後は脳内出血,脳腫瘍に対しても神経内視鏡を使用した手術が増加するものと考えられる.しかし,ViewSiteは,元来,神経内視鏡手術用として開発されたものではなく,その形状や長さにはまだ検討の余地があると考えられる.また,ニューロポート(オリンパス)やViewSiteは,外筒のみでは術中の術野の深さがわからない.

 われわれは,より安全な神経内視鏡手術を遂行するための神経内視鏡手術リトラクター(シリンダー)の条件として,①術者が内視鏡下で穿刺し,シリンダーを留置できること,②シリンダーの目盛りを装着することにより術者およびアシスタントが内視鏡下にシリンダーの位置を確認できること,③シリンダーの目盛りが単純X線撮影下で確認できること,④アシスタントが術野から直接見て深さを確認しながらシリンダーを操作できること,⑤手術の多様な場面に対応できるようにさまざまなサイズを有することが重要であると考えた.今回,これらの点を満たす神経内視鏡シリンダー(Brain cylinder)を,科学技術振興機構(Japan Science and Technology Agency:JST)の復興促進プログラムによる研究開発により作製した.また,臨床例も経験し,その有用性について検討したので報告する.

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Ⅰ.はじめに

 慢性硬膜下血腫は,脳神経外科医が日常診療で最も多く遭遇する疾患の1つである.治療には穿頭血腫除去術が広く行われており,良好な治療成績が得られている.しかし,その中には難治性の慢性硬膜下血腫が存在し,器質化慢性硬膜下血腫もその1つである.今回われわれは,穿頭術中に器質化慢性硬膜下血腫と診断し,硬性鏡下に屈曲させた吸引管を用いて可及的な血腫除去を行い,治癒し得た症例を経験したので報告する.

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Ⅰ.はじめに

 広範囲減圧開頭術は,重症頭部外傷や重症脳卒中による頭蓋内圧亢進に対して施行される.術後数週間から数カ月で骨欠損部が陥凹した際に頭痛,めまい,易疲労感などの自覚症状が出現することがある.これらは“the syndrome of the trephined”として1939年にGrantらによって報告され4),その後いくつかの報告があったが3,5,15,18,25,29),機序については言及されていない.1977年にYamauraらが片麻痺や失語,知覚障害などの神経症状の出現について“the syndrome of the sinking skin flap”としてその原因を報告し30),現在はこれらの症状は同機序で起こると考えられている.今回われわれは,広範囲減圧開頭術後慢性期に難治性の頭痛と見当識障害,発動性の低下を認め,頭蓋形成術後にそれらの症状が消失した症例に対し,perfusion MRIによる脳循環評価を行ったので報告する.

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Ⅰ.はじめに

 非交通性水頭症に対する治療法は,脳室腹腔シャント術(ventriculoperitoneal shunt:VPS)が選択されることが一般的であるが,近年の神経内視鏡の普及に伴い内視鏡的第三脳室底開窓術(endoscopic third ventriculostomy:ETV)が選択される機会が増えている.特発性中脳水道狭窄症に伴う閉塞性水頭症に対するETVの有効性については広く認識されているが15),髄膜炎や脳室炎などの感染・炎症性疾患に続いて発症する水頭症に対するETVの治療成績は必ずしも良好とはいえず,その適応は限定的と考えられてきた6).その一方で,感染・炎症性疾患後の水頭症に対してもETVが有効であったとする報告が散見されはじめており4,10,12-16),治療適応について再考の必要性がある.今回われわれは,リステリア髄膜炎後の水頭症に対してETVが奏功した症例を経験したので文献的考察を加え報告する.

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Ⅰ.はじめに

 脳脊髄液漏出症は,脊髄硬膜外に髄液が漏出することで,起立性頭痛を中心とする多彩な症状が生じる疾患である.症状は,起立性頭痛のほかに,めまい,嘔気,やる気がでないなど非特異的であり,交通外傷や腰椎穿刺が原因となることもあるが,その原因が特定できないことも多い4,5).今回われわれは,非典型的な症状で外来受診し,入院後の診療経過によって診断に至った,変形性頚椎症に合併した特発性脳脊髄液漏出症を経験したので,若干の文献的考察を加えて報告する.なお,脳脊髄液減少症,低髄液圧症候群の用語も使用されているが,低髄液圧でない症例もあり,病態の本質は脳脊髄液漏出である5).本症例では脳脊髄液漏出を画像的に証明できていることから,脳脊髄液漏出症を用いた.

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Ⅰ.はじめに

 頭蓋内硬膜動静脈瘻(intracranial dural arteriovenous fistula:dAVF)には,多臓器の動静脈奇形・動静脈瘻を伴う遺伝性出血性毛細血管拡張症(hereditary hemorrhagic telangiectasia:HHT)に関連するものがある7).今回われわれは,HHTの臨床診断基準に合致しないdAVFに左内胸動脈起始部漏斗状拡張,左内胸動脈肺動脈瘻,左肋間動脈肺動脈瘻,および左下横隔動脈肺動脈瘻という複数の体循環-肺動脈瘻を合併した稀な症例を経験した.この体循環-肺動脈瘻は,それ単独で喀血や心不全を生じた報告がある2,8,12,15).本報告例はdAVFの周術期に呼吸器・循環器合併症を併発せず加療されたが,この体循環-肺動脈瘻における,dAVFの周術期リスク評価に関わる留意点を文献的に考察して報告する.

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Ⅰ.はじめに

 中枢神経系原発悪性リンパ腫(primary central nervous system lymphoma:PCNSL)は,本邦では全原発頭蓋内腫瘍の3.1%を占め8),ここ20年間で増加している4).しかし,下垂体原発悪性リンパ腫(以下,下垂体リンパ腫)の報告は0.1%と稀である10).今回,われわれは非機能性下垂体腺腫との鑑別が難しかった下垂体リンパ腫の症例を経験したので,文献的考察を加えて報告する.

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Ⅰ.はじめに

 内頚動脈(internal carotid artery:ICA)の閉塞に伴って生じる脳動脈瘤(新生動脈瘤:de novo aneurysm)は,血行力学的負荷が生じる前交通動脈や対側のICAに多く発生するとされ,閉塞側ICAに新生脳動脈瘤が発生することは稀である1,4,10).また,閉塞側に生じた脳動脈瘤は,親動脈の閉塞により血行力学的負荷が少なくなっていることが推察され,この脳動脈瘤が破裂する危険性は少なくなると思われる.今回われわれは,ICA閉塞症に伴う閉塞と同側の内頚動脈-後交通動脈(internal carotid artery-posterior communicating artery:IC-PC)分岐部付近に発生した脳動脈瘤破裂によるくも膜下出血を経験した.脳動脈瘤コイル塞栓術を行うにあたり,心臓側ICAがアプローチルートとして使用できないため,異なるアプローチルートを考慮する必要があった.前方循環と後方循環をつなぐ後交通動脈を利用して椎骨-脳底動脈から後交通動脈を経由させた瘤内塞栓術が有効であったため,文献的考察を加えて報告する.

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●CBT法にハマった外科医の拘りの手術記録

 仕事は拘るからこそ続けられるし,拘りが形を創り,それを語る言葉にも重みが増す.

 CBT法は,筆者も2012年秋に紹介されたときには,保険会社に支配される欧米由来の安易な手術手技,なんじゃこら(宮崎弁)椎弓根スクリュー法としてあしらった.一方で,同時期に渡米し,O-arm®Rナビゲーション下でCBT法を多く行っている外科医と仕事をし,秘めたる可能性を認識していた.その後,第21回日本脊椎・脊髄神経手術手技学会学術集会(2014年)の会長として,種々の研究会の抄録を取り寄せ,主題の採択準備をしていくと,CBT法について,防衛医科大学関連施設からの多くの症例報告がやはり気になり出した.しかし,抄録や実際の発表では,時間内に収まるありきたりの報告が続く.側方経路腰椎椎体間固定術(PLF)から後方経路腰椎椎体間固定術(PLIF)への変換時期に比べて熱い討論などはない.では,どこが従来の椎弓根スクリュー挿入より有用なのか? どこまで適応できるのか? 筆者のような並の外科医は,リカバリー手技として,一種のバリエーションとして考えるに過ぎなかった.X線透視下ではあるが,試してみても,しっくりこなかった.

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Ⅰ.はじめに

 トルコ鞍および傍鞍部に生じる腫瘍は頭蓋内腫瘍の10〜15%程度とされている.その多くは下垂体腺腫,頭蓋咽頭腫,髄膜腫などの良性腫瘍であり,その他にはラトケ囊胞,胚細胞腫瘍などが鞍内・傍鞍部腫瘤の大半を占める.非腫瘍性病変としては,ランゲルハンス細胞組織球症(Langerhans cell histiocytosis),リンパ球性下垂体炎,サルコイドーシスなどが鑑別診断として挙げられる.本稿では鞍内・傍鞍部腫瘍の代表である下垂体腺腫について,最近の研究を中心に述べていきたい.読者にとっては周知の内容と思われる一般的な下垂体腺腫の分類や診断基準,治療などについては割愛する.

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次号予告

編集後記 前原 健寿
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 昨年の12月から,『脳神経外科』誌に編集委員として参加しています.学生時代から研修医,そして特に専門医試験前の貴重な教材として活用していた本誌の編集後記を執筆する機会が巡ってきたことを感慨深く感じています.

 本号の扉では,川俣教授が「脳神経外科医のコンディショニング」として,脳神経外科医のQOLを高め,よりよい健康状態・精神状態で診療・研究・教育に向かうことの重要性,そのための「医者の養生」,コンディショニングの必要性を力説しています.脳神経外科医を続けることは,生涯にわたり勉強を続けることであり,そのためにはよりよい健康状態・精神状態を維持することが必要です.しかし,若い時の体力がいつまでも続くわけではありません.年齢,環境に応じたコンディショニングを整えていくことは,脳神経外科医としての人生を続けるための基本です.

基本情報

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Neurological Surgery 脳神経外科
44巻9号 (2016年9月)
電子版ISSN:1882-1251 印刷版ISSN:0301-2603 医学書院

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