Japanese
English
- 有料閲覧
- Abstract 文献概要
- 1ページ目 Look Inside
- 参考文献 Reference
Ⅰ.はじめに
脊髄髄膜瘤は胎生期の脊髄を形成する過程で発生する先天異常であり,患者は下肢麻痺,排尿排便障害などの神経障害を後遺したまま成長・発達する.さらに水頭症やキアリ奇形,脊髄空洞症,脊椎変形,褥瘡による皮膚損傷など,合併症や派生する医学的問題も多岐にわたる.1950年代以前には漏出する髄液の感染や進行する水頭症によって乳児期に死亡する患者が多く,生存率は10〜12%と低かった29).そのため1970年代までは治療後に重篤な後遺障害が予測される場合には,意図的に治療の対象としないこともあった(選択的治療)30).しかし1950年代後半に開発された水頭症治療のためのシャントシステムや抗菌薬の使用,カテーテル排尿法の導入などにより生命予後が向上すると,出生した脊髄髄膜瘤患者はすべて治療対象とされるようになり,現在に至っている(非選択的治療)33).最近では1歳時点で92.8%,20歳時でも85.2%が生存しており50),いまや脊髄髄膜瘤患者の85〜90%は成人になることが期待できる18).
長期生存した脊髄髄膜瘤患者が成人後に広く社会に活動の場を求めるようになったこと,および医療のパターナリズムから脱却して患者の自己決定権を重視する時代の流れもあって,近年は脊髄髄膜瘤の治療結果について,医療者の視点で生存率や身体機能(画像および神経学的所見)を評価するばかりでなく,患者・家族が「患者の視点」で主観的,質的に自らの状態を判定する,生活の質(quality of life:QOL)評価も重視されつつある(Fig.1).治癒することを望めない慢性疾患では,治療のゴールは生存ではなくQOLの維持,改善にある27)とも言われる.医療評価を目的としてQOLを用いる場合は,「健康関連QOL」を測定・活用することが望ましい(Fig.2)23).健康関連QOLには,幸福度,生きがいなど,健康以外の要因によって大きく左右される要素は含まれない.QOLと満足度もお互いに関連性をもちうるが,それぞれ異なる概念として捉えられることが多く,独立して測定するのが望ましい.脊髄髄膜瘤患者のQOLに影響するさまざまな要素を認識,把握し,脳神経外科の立場で患者のQOLの改善を図ることは,最終的に患者,家族の治療に対する満足度を高め,疾患を受容することにつながると思われる.
本稿では,まず脊髄髄膜瘤の病態について概説し,治療後の機能予後の現状を示す.その後,最近の脊髄髄膜瘤についてのQOLを指標とした評価結果と,そこに関係する要素を提示して,患者,家族のQOLと満足度を高めるために重要と思われる治療およびケア上の注意点について検討する.
Copyright © 2016, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.