Neurological Surgery 脳神経外科 44巻8号 (2016年8月)

Adverse event-based research 小笠原 邦昭
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 タイトルの“adverse event-based research”はもちろん,筆者の造語である.Adverse eventは有害事象と訳される.すなわち「治療や処置に際してみられるあらゆる好ましくない徴候,症状,疾患,検査値異常」ということである.

 話は変わるが,本邦の医師,医学研究者の英文論文数が減少しているといわれて久しい.前国立大学財務・経営センター理事長で元三重大学学長の豊田長康先生によると,英文論文数は日本以外の国はすべて,年次を追って右肩上がりなのに対し,日本だけ2005年から増加が鈍化して2007年から減少に転じているとのことである.その理由として,国立大学法人化と同時期になされたさまざまな政策が影響していると述べられている.これはもちろん大局的には異存はないが,筆者自身の専門領域である脳血管障害に対する外科治療の臨床研究をみると,別の原因も関連しているのではないかと考えたくなる.

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Ⅰ.はじめに

 世界保健機関(World Health Organization:WHO)の脳腫瘍分類(Classification of Tumours of the Central Nervous System)は1979年に初版が発行されて以来,診断技術の進歩に合わせて改訂を重ね,今回,第4版の改訂版(WHO2016)9,10)が発行された(2016年5月).この改訂版は分子分類を初めて取り入れるなど従来の基本的な考え方が大きく変更され,事実上の第5版と呼ぶべきものであった.しかしながら,WHO分類は全臓器が歩調を合わせて改訂を行う決まりとなっており,他臓器の第4版が終了していない現段階では第5版を謳うことができないという縛りがあったため,今回は「改訂版」にとどまった.

 本稿では新分類の理解の一助とするために,改訂に至った経緯や背景などを中心に解説を試みる.

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Ⅰ.はじめに

 超高齢社会を迎え,骨粗鬆症の有病率は上昇しており,現在では国民の約1割がこの疾病を有するとされる.骨粗鬆症は,高度な外傷がなくとも生じる脆弱性骨折の原因となり,これら骨折の中で胸腰椎に生じる椎体骨折(一般的には圧迫骨折と称される)は最も頻度が高い.本邦では70代前半の25%,80歳以上の43%が椎体骨折を有するとされる31).高齢者の急性腰背部痛には骨粗鬆症に伴う胸腰椎椎体骨折が含まれている場合も多く,救急外来の対応においても見逃しが危惧される疾患である10).診断の遅れや不適切な治療介入は,良好な骨折治癒に至らず偽関節化や椎体圧潰進行の可能性があり,疼痛の遷延や高度な脊柱変形,神経症状発現のリスクを生じる.不良な経過を辿れば,身体運動機能ばかりではなく心理的苦痛や内臓機能障害などを伴い,日常生活や社会活動性,生命予後にも影響を与える.早期に適切な診断加療を行えば,より早く,より負担が少なく,よりよい状態で従来の生活に復帰できるため,「圧迫骨折はなにもせずに寝ていればそのうち治る」という医療側の姿勢は許容されるものではない.また,再発予防の観点からも当該骨折の治療のみに焦点を当てず,将来的な骨粗鬆症治療,再骨折予防の対策を行わなければならない.

 脊髄脊椎疾患治療に携わる脳神経外科医だけではなく,救急診療や高齢者一般外来に対応する脳神経外科医にとっても,この疾患の診断と治療を知っておくことは,診断ミスや治療のトラブルを回避するための必須事項である.また,保存的治療における薬物療法の進歩も目覚ましく,外科治療についても低侵襲化,革新的な手技の開発など選択肢が多様化しており,おのおのの治療法について利点と欠点を含め最新情報を整理しておくことが必要である.本稿では,骨粗鬆症に伴う胸腰椎椎体骨折の診断と,各種治療法について概説する.骨粗鬆症に関する診断基準については「骨粗鬆症の予防と治療ガイドライン2015年版」に記載されており参照いただきたい.

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Ⅰ.はじめに

 脳動脈瘤手術では,術前画像で脳動脈瘤と周囲の血管との解剖学的構造を知ることが必須である.古くから行われている脳血管撮影に加え,今日ではコンピュータ技術の発達により3-dimensional computed tomography angiography(3D-CTA), magnetic resonance angiography(MRA), 3-dimensional rotational angiography(3D-RA)などのコンピュータグラフィックス(CG)が容易に得られるようになり,術前画像として欠かせないものとなっている.さらに,CGの発展としてバーチャルリアリティ(VR)技術を利用した術前シミュレーションや手術トレーニング方法も報告されている7,9)

 しかし,CGの3次元投射画像から立体的な血管構造を把握するためには,コンピュータ上で回転や移動,サイズ変更などをマウス操作で行う必要があり,複雑な立体構造を直感的に把握できるとは言いがたい.また,偏光メガネやVR端末ゴーグルを利用した立体視手法も存在するが,真の立体感に乏しい.われわれは立体構造を直感的に把握するためには,視覚だけでなく触覚など複数の知覚を動員し,それらが相互に関与することで理解ができる「真の立体」が有用と考えている6)

 画像データから迅速に立体モデルを作製する技術はrapid prototyping(RP)と呼ばれ,医療分野においてもさまざまな目的で使用されている4).RPにはいくつかの方法があるが,最近ではABSなどの樹脂を用いた熱溶解積層方式の3Dプリンターの低価格化が進み,パーソナルユースでも注目されている2)

 RP技術を脳動脈瘤手術シミュレーションに用いた報告はいくつかみられるが1,3,10,11),作製を外部業者に委託するため数日から数週間の時間を要することと,費用も高額であることから,時間に余裕のある待機手術には対応できても緊急性の高い破裂脳動脈瘤手術には対応困難であった.そこで本研究では,低価格で導入しやすい小型3Dプリンターを使用して自施設内で立体モデルを作製し,さらには作製時間を短縮させる工夫も加えて,より早くモデルを得ることができるシステムを構築した.このシステムで脳動脈瘤立体モデルを作製し,破裂脳動脈瘤緊急手術への臨床応用を試みるとともに有用性を検討した.

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Ⅰ.はじめに

 結節性多発動脈炎(polyarteritis nodosa:PAN)は中・小動脈に壊死性血管炎を生じ,多臓器に塞栓,血栓,動脈瘤形成を引き起こす疾患である.当初は顕微鏡的多発血管炎(microscopic polyangitis:MPA)も同一の疾患群としてとらえられていたが,現在ではPANはMPAとは独立した疾患であることが確立している8).MPAに比較するとPANは稀な疾患であり,本邦では100万人あたり11.7人の有病率と推計されている11).PANでは血管壁の脆弱性による微小動脈瘤や血管炎による狭窄の合併が知られており2),腎動脈では66.2%,腸間膜動脈では57.7%に微小動脈瘤あるいは狭窄が認められたと報告されている13).しかしながら,脳動脈瘤の報告は散見される程度で,極めて稀である5,12,21,24)

 今回われわれは,たこつぼ型心筋症(takotsubo cardiomyopathy:TCM)を合併し短期間に両側内頚動脈瘤破裂を繰り返したPANの症例を経験したので,文献的考察を加え報告する.

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Ⅰ.はじめに

 非外傷性脊髄硬膜外血腫は比較的稀な疾患である.ただし特徴的な病歴と神経学的所見より適切な脊椎画像診断を行えば,早期診断と治療が可能である.血腫部位に応じた突然の頚部痛や背部痛で発症し,進行性の運動麻痺・感覚障害・膀胱直腸障害が後続することが多い5,9,13).しかし,無痛例や片麻痺例では脳卒中と誤り治療を受ける例があり注意を要する8).また治療について,従来は早期手術が推奨されたが,近年は保存的治療の良好な結果も報告されており,標準的な治療プロトコールは定まっていない6,8,10,12,16,18,19,22-25).本報告では自験の非外傷性脊髄硬膜外血腫5例を報告するが,5例中4例が65歳以上の高齢者であり,また同じく4例が抗血栓薬内服中の患者であった.この2点は本邦の人口分布の特徴である高齢化を反映していると思われる.今回われわれは,治療環境の類似している本邦の治療報告を集積する目的で,本邦より発表された文献についてsystematic reviewを行い,非外傷性脊髄硬膜外血腫の治療選択肢を検討した.

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Ⅰ.はじめに

 脳槽内石灰化病変を来す疾患は極めて稀であるが,なかでも結核性髄膜炎は脳槽内を中心に炎症を来し,結核腫といった腫瘤性病変を来すことが知られている19).今回われわれは,結核性髄膜炎に起因する結核腫による視索圧迫にて視機能障害を来した1手術例を経験したため,文献的考察を加えて報告する.

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Ⅰ.はじめに

 脊髄髄内膿瘍は比較的稀な疾患であり,膿瘍の原因としては感染性心内膜炎などによる血行感染や脊柱管内皮膚洞などからの直接感染がある.今回われわれは,重症歯周炎による血行感染が原因と思われる頚髄髄内膿瘍の稀な1例を経験したので,若干の文献的考察を加え報告する.

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Ⅰ.はじめに

 Malignant peripheral nerve sheath tumor(MPNST)は稀な軟部組織悪性腫瘍である.疫学的には軟部組織の悪性腫瘍の5%,末梢神経系腫瘍の0.4%を占める.30〜60代が好発年齢とされ,やや男性に多い.半数以上はneurofibromatosis-1(NF1)に合併するが,孤発例(sporadic)11)も報告されている.四肢の末梢神経に好発し,脊髄に原発するものは比較的稀である2-5,7,8,10,11)

 今回われわれは,放射線治療後17年の経過で良性のschwannomaから悪性転化を来したと考えられた脊髄MPNSTの1例を経験したので文献的考察を含め報告する.

連載 脳腫瘍Update

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Ⅰ.はじめに

 WHO脳腫瘍分類2007においては,脳神経・脊髄神経腫瘍は,①神経鞘腫(シュワン細胞腫,schwannoma),②神経線維腫(neurofibroma),③悪性末梢神経鞘腫瘍(malignant peripheral nerve sheath tumor:MPNST),④神経周膜腫(perineurioma)に分かれる.本稿では特に①〜③について,最新の知見を含めて詳細に解説する.

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編集後記 飯原 弘二
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 夏至も過ぎ,酷暑の日々が到来しました.熱中症の患者の搬送が日々報じられ,熊本地震の被災者の皆さまのご健康をお祈りしております.

 本号の「扉」では,岩手医科大学教授の小笠原邦昭先生が,「Adverse event-based research」という造語を披露された上で,昨今の本邦のアカデミック・アクティビティが低下していることを打開する1つのアイデアとして,提唱しておられます.常々,症例報告が大事であることを主張されておられる先生ならではのお考えで,まったく同感です.1人でも多くの若手の先生が,この「扉」から脳神経外科医のアカデミック・スピリットを感じ,リサーチマインドを醸成していただければと思います.

基本情報

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Neurological Surgery 脳神経外科
44巻8号 (2016年8月)
電子版ISSN:1882-1251 印刷版ISSN:0301-2603 医学書院

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