麻酔 71巻11号 (2022年11月発行)

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投稿論文　症例集積研究

帝王切開術の子宮縫合方法の違いが母体の悪心･嘔吐に及ぼす影響中郷　あゆみ , 澤田　敦史 , 名和　由布子 , 杉目　史行 , 長井　洋 , 山蔭　道明 , 中郷　賢二郎 71巻11号 , 2022年11月 , pp.1186-1190

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帝王切開術では児娩出後の子宮縫合は,体内または体外で行われる。この術式の違いが母体の術中悪心･嘔吐(intraoperative nausea and vomiting:IONV)に及ぼす影響を後方視的に検討した。予定手術を対象に子宮縫合方法により2群間で比較したところ,麻酔方法に有意差はなく,体内縫合群のIONVが有意に少なかった。帝王切開術の子宮縫合は,体内縫合により母体のIONVを減らす可能性がある。

ロボット支援下腹腔鏡前立腺全摘術における心係数の低下が血清乳酸値と術後急性腎障害の発生に及ぼす影響についての検討那須　倫範 , 吉田　仁 , 大石　博史 , 荒井　理歩 , 青山　実 , 長岡　治美 , 榎本　洸 , 青木　大輔 , 宇佐美　潤 , 長崎　晶美 71巻11号 , 2022年11月 , pp.1191-1195

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ロボット支援下腹腔鏡前立腺全摘術(robot-assisted laparoscopic prostatectomy:RALP)における心係数(cardiac index:CI)の低下が,術中の血清乳酸値(lactate:Lac)と術後急性腎障害(acute kidney injury:AKI)の発生に及ぼす影響について検討した。頭低位中にCIは最小1.43±0.33l･min-1･m-2まで低下し,術中のLacは最大1.17mmol･l-1まで上昇したが,CIとLacとの相関関係は認めなかった。また,術後AKI発生の危険因子として,術中のCIの低下とLacの上昇は検出されなかった。RALPにおけるCIの低下は,術中のLacの上昇と術後AKIの発生に関連しなかった。

投稿論文　症例報告

術前診察では予期できなかった気道確保困難に対してMcGRATH^TM MAC併用の気管支ファイバースコープガイド下挿管が有用であった1症例小北　篤史 , 立花　俊祐 , 茶木　友浩 , 枝長　充隆 , 山蔭　道明 71巻11号 , 2022年11月 , pp.1196-1200

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術前気道評価では困難気道を予測する所見を認めず,気道確保は容易と判断したが,麻酔導入時に気管挿管が非常に困難な症例を経験した。最終的にMcGRATH MAC(コヴィディエンジャパン,東京)による喉頭展開下に気管支ファイバースコープガイド下経口挿管を施行した。予期せぬ気道確保困難に遭遇する可能性があるため,日ごろから,さまざまな気道管理法に精通する必要がある。

ミニトラック挿入後にボールバルブ血餅によって重篤な気道閉塞合併症を生じた1症例高倉　将司 , 藤井　祐 , 喜多　桂 , 谷口　智哉 , 天野　靖大 , 鈴木　章悟 , 西脇　公俊 71巻11号 , 2022年11月 , pp.1201-1204

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ミニトラック(スミスメディカル･ジャパン,東京)挿入後のボールバルブ血餅による気道閉塞はまれな致死的合併症である。本症例は迅速な軟性気管支鏡検査で挿管チューブ先端付近にボールバルブ血餅を確認し,原因診断ができたが,血餅は除去困難であった。血餅を右主気管支に押し込み,片肺換気にして気道を開通させたため,循環破綻せずに救命可能であった。

プロタミンによる致死的肺血管収縮を来し術後早期に呼吸不全で死亡した大動脈弁形成術の1症例小田　亜希子 , 木村　素子 , 赤池　瑶子 , 白神　拓 , 小宮　達彦 , 石田　和慶 71巻11号 , 2022年11月 , pp.1205-1210

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大動脈弁形成術および冠動脈バイパス術合併手術の人工心肺離脱時に致命的なプロタミン誘発性肺血管収縮(HorrowのIII型)を来した症例を経験した。患者は術中人工心肺を3回必要とした。3回目の離脱後は止血にプロタミンを再投与せず,大量の血液製剤を使用した。術後7日目に呼吸状態の悪化を来し,8日目に体外式膜型人工肺(VA-ECMO)を導入したが死亡した。病理解剖の結果より緑膿菌肺炎によるびまん性肺胞傷害が原因と考えられた。

遺伝性出血性末梢血管拡張症に対する脳死肝移植の周術期管理の1症例申　木蓮 , 松崎　孝 , 片山　明 , 賀来　隆治 , 森松　博史 71巻11号 , 2022年11月 , pp.1211-1214

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遺伝性出血性末梢血管拡張症に起因する,肝臓の動静脈瘻を介した肺高血圧症で,呼吸困難を呈し在宅酸素療法が必要となり,脳死登録後3ヵ月の肺高血圧に対する内科的薬物療法を経て脳死肝移植に至った症例の周術期管理を経験した。周術期全般における肺高血圧の増悪を想定した呼吸･循環管理の準備が重要である。

低髄液圧性頭痛と片頭痛の併存を認めた2症例愛甲　一樹 , 村谷　忠利 71巻11号 , 2022年11月 , pp.1215-1218

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脳脊髄液漏出症は脳脊髄液が漏出し,起立性頭痛を呈する。今回,脳脊髄液漏出症の治療中に,体位変換で症状変化のない2症例を経験し片頭痛の併発と診断した。硬膜外自己血パッチと,片頭痛に薬物治療を同時期に行い,良好な治療結果を得た。頭痛の診療,治療に際しては,患者の状態や症状を十分に把握することが重要である。

扁桃摘出術後出血の第XIII因子欠乏と判断した1症例宇佐美　奈由香 , 堀　泰雄 , 今村　圭佑 , 西田　宙夢 , 八木　真実 71巻11号 , 2022年11月 , pp.1219-1222

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一般凝固機能検査の結果に問題がないにもかかわらず,術後出血を繰り返したため,凝固因子検査を行ったところ,第XIII因子(factor XIII:F13)欠乏症であることが判明し,F13の補充により改善した症例を経験した。術後出血を認め一般凝固機能検査で異常を認めない場合には,F13欠乏症の可能性を考慮し,凝固因子検査を行うべきである。

腎移植後の腹腔内出血によるショックに対して大動脈遮断バルーンカテーテル使用下に止血術を行った1症例三島　洋輝 , 日下　裕介 , 梅垣　修 , 南　敏明 71巻11号 , 2022年11月 , pp.1223-1227

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大動脈遮断バルーンカテーテル(intra-aortic balloon occlusion catheter:IABO catheter)は,腹腔内出血などのショック時に循環を維持する手段であるが,むしろ合併症が高まる報告もある。今回,腎移植後に緑膿菌感染を認め,ショックを伴う腹腔内出血に対し,術前にIABO catheterを挿入し血行動態の安定化と出血制御を図り,開腹止血･移植腎摘出術を施行しえた。

帝王切開術後の腹部X線写真で遺残造影剤を腹腔内異物と誤認した1症例穆　慧麗 , 馬屋原　拓 , 島田　憲宏 , 福岡　良佑 , 西山　淳二 71巻11号 , 2022年11月 , pp.1228-1230

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帝王切開術後の腹部X線写真およびコンピュータ断層撮影(CT)検査で金属を疑わせる高吸収域を認めたが,再開腹術で明らかな異物を認めず,術中の腹部X線写真で高吸収域は消失していた。子宮卵管造影検査の既往および同様の症例報告が少数あることから,高吸収域は遺残造影剤で,再開腹術中の洗浄操作で希釈,吸引されたと結論した。

Kindler症候群における全身麻酔の経験脇　彩也香 , 堀　耕太郎 , 日野　秀樹 , 辻川　翔吾 , 松浦　正 , 西川　精宣 , 森　隆 71巻11号 , 2022年11月 , pp.1231-1233

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Kindler症候群は,まれな表皮水疱症の一型であり,機械的刺激で容易に水疱を生じ,瘢痕拘縮を繰り返す。気道確保が問題となり,全身麻酔はなるべく避けるべきであるが,皮膚悪性腫瘍切除および植皮術に対し,気管支ファイバースコープを用いた気管挿管による全身麻酔を計画し,大きな合併症なく管理することができた。

巨大奇静脈瘤切除術の麻酔経験佐々木　一真 , 河野　匡暁 , 湯浅　真由美 , 北川　裕利 , 柳田　豊伸 , 木田　英樹 , 高橋　完 71巻11号 , 2022年11月 , pp.1234-1237

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奇静脈瘤は非常にまれな疾患であり,治療介入の方法やタイミングは明確になっていない。今回,奇静脈瘤を有する患者に対して,全身麻酔下に行った瘤切除術の周術期管理を経験した。瘤が破裂した場合に起こりうる大量出血への対応を事前に協議し麻酔計画を立てることで,安全に周術期管理を行うことができたので報告する。

投稿論文　紹介

蘇生の歴史　呼吸機能の解明　Richard Lower 浅井　隆 71巻11号 , 2022年11月 , pp.1238-1244

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リチャード･ロウアーは,ロバート･フックが開発したイヌの生体実験を行うことにより,動脈血と静脈血との色が異なっているのは,異なる血液が流れているからという古典的な説を否定し,血液は循環しているため動脈血と静脈血は同じものであるとしたハーヴェイの説が正しいことを示した。そして,どす黒い静脈血は,肺内を通過するときに,肺胞内の空気成分が血液中に入り込むことにより鮮赤色となることを証明した。

新生児･乳児の周術期における吸気の加温･加湿に関するアンケート調査黒田　瑞江 , 山下　智範 , 橘　一也 71巻11号 , 2022年11月 , pp.1245-1252

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小児周術期の人工呼吸における加温･加湿に関する全国アンケート調査を2019年8月に施行した。176施設中130施設より回答があった(回収率73.9%)。多くの施設が人工鼻を使用しており,加温加湿器を選択する基準として体重が用いられる傾向にあった。人工鼻の問題点として,死腔の増加と回答した施設がもっとも多かった。気管チューブのカフの有無と加温･加湿方法の選択には明らかな関連性を認めなかった。

"日本麻酔学会"はなぜ1954年に設立されたか松木　明知 71巻11号 , 2022年11月 , pp.1253-1260

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日米連合医学教育者協議会が1950年に行われ,Meyer Sakladの麻酔科学の講義はこの分野の関心を大いに高めた。これを受けて1952年に東京大学にわが国初の麻酔学講座が開講され,山村秀夫が助教授として発令された。そして1954年5月に日本麻酔学会が設立された。設立の表向きの理由は日本胸部外科学会での麻酔関連の演題数急増であったが,実質的には1953年8月の山村の米国留学からの帰国を待って設立されたものであった。

華岡青洲の"教養"の学統松木　明知 71巻11号 , 2022年11月 , pp.1261-1269

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華岡青洲は疾病の治療,とりわけ難治疾患の治療に尽瘁し,患者がその天寿を全うすることを医の究極の目標とした。そのために彼がとった方法は,複数科の兼修という学際的手法と伝統的処方に加えて非伝統的処方"奇方"の積極的応用であった。青洲はこのような方法論の基盤となる教養を京都遊学時代初期に鈴木蘭園,朝倉荊山などから学んだ。教養の学統の中で蘭園から大きな影響を受けた。教養を無視しては青洲の医学を理解できない。

心臓外科手術3症例におけるProAQTセンサーと肺動脈カテーテルの比較小川　理恵 , 鈴木　博明 , 新井　丈郎 , 奥田　泰久 71巻11号 , 2022年11月 , pp.1270-1274

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心臓外科手術3症例でProAQTセンサー(ゲティンゲグループ･ジャパン,東京)と肺動脈カテーテルの測定値の一致度の検討を行った。執刀時,胸骨正中切開時,人工心肺開始前,人工心肺離脱10分後,人工心肺離脱30分後にそれぞれの機種で測定された心拍出量を記録し,Bland-Altman分析で評価した。その結果,2機種間の心拍出量の一致度はそれほど高くなかった。ProAQTセンサーのさらなる改良が期待された。

先天性無痛無汗症に対するオピオイドフリー麻酔の経験松本　りか , 魚島　直美 , 岡田　寿郎 , 濱田　隆太 , 柿沼　孝泰 , 小林　賢礼 , 石田　裕介 , 内野　博之 71巻11号 , 2022年11月 , pp.1275-1277

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生後4ヵ月で先天性無痛無汗症(congenital insensitivity to pain with anhidrosis:CIPA)と診断された患者が,1歳1ヵ月時に転倒し,右尺骨骨幹部骨折の診断となった。緊急で全身麻酔を行い,鎮静薬はプロポフォール,筋弛緩薬はロクロニウムを使用し,麻薬性鎮痛薬,補助鎮静薬を使用せずに安全に麻酔を施行しえた。

基本情報

麻酔
71巻11号
(2022年11月発行)

電子版ISSN：印刷版ISSN：0021-4892 克誠堂出版

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麻酔 71巻11号 (2022年11月発行)

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