Brain and Nerve 脳と神経 33巻10号 (1981年10月発行)

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原著

両下肢クローヌスを伴ったparoxysmal kinesigenic choreoathetosisの1家系西　克典 , 田中　茂樹 , 楢林　博太郎 33巻10号 , 1981年10月 , pp.981-988

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はじめに

　Paroxysmal kinesigenic choreoathetosisは主に随意運動開始に伴い，発作的にchoreoathetosisあるいはdystonicな異常運動や異常姿勢を生ずる疾患である。本症はGowers^3）によりはじめて記載され，本邦でも呉^13），岸本^12）をはじめとして多くの報告，綜説があるが，その病因，機序に関しては多くは不明のままである。本症は一般に発作間歇期にはほとんど神経学的異常を認めないとされているが，われわれは今回他の面では比較的典型的な発作を有し，共通して両下腿三頭筋反射の亢進と両足クローヌスを示した一家系を調べる機会を得たので報告する。

乳児ビタミンK欠乏症による頭蓋内出血—乳児頭蓋内出血に占めるその重要性について松坂　哲應 , 片山　和弘 , 辻　芳郎 , 安永　暁生 , 森　和夫 33巻10号 , 1981年10月 , pp.989-997

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I．はじめに

　脳性麻痺，特に痙性片麻痺または痙性四肢麻痺の病因を検討した際，周産期に異常がなく，発育良好な1〜2ヵ月の乳児に突然発症する頭蓋内出血をかなりの頻度で見出した。

　早期新生児期を過ぎた乳児の特発性頭蓋内出血の病因として動脈瘤，動静脈奇形，血友病などの出血性疾患があげられている^{10,15,16,18,20,22,24）}が，これらがこの時期に発症することはきわめて稀である。ところが，前回調査した生後1週以降より1歳未満までの頭蓋内出血^7）をみると，大多数が外傷の既往がない急性頭蓋内出血であり，その原因として乳児ビタミンK欠乏症（乳児V．K欠乏症）と原因不明のものがほとんどを占めた。この両者は臨床像がきわめて似ていることから両者を比較検討した結果，原因不明の急性頭蓋内出血のほとんどすべては乳児V．K欠乏症によるものと推論した。今回の研究は対象を長崎市内から長崎県内の発症例にまで広げ，また調査内容を充実して両者の異同を再検討するとともに，乳児V．K欠乏症の発生要因を追究し，さらにこの年齢層の頭蓋内出血に遭遇した場合，ビタミンK （V．K）療法前の凝血学的検査用採血を励行し，それ以後に原因不明の急性頭蓋内出血の発症頻度がどう変化するかを検討した。

脳室出血—出血源同定困難な成人例について佐山　一郎 , 安井　信之 , 磯部　逸夫 , 伊藤　善太郎 33巻10号 , 1981年10月 , pp.999-1006

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I．はじめに

　頭蓋内の出血性疾患は，その発症急性期にCTスキャン，脳血管撮影を行なうことにより，容易に診断がなされるようになつた。CTにて捉えられる脳室内出血についてもその多くが出血源を含めた正確な診断が可能であり，その臨床像は，脳室内出血がきわめて予後不良としたSanders^11）の剖検例による報告とは異なりをみている^8,12）。本論文ではまずこれまでわれわれが経験した脳室内出血例を出血源との関連で提示する。次いで発症1週以内入院例での入院時検索で，CT所見が主に脳室内出血の形をとり，その出血源がCT上同定困難で血管撮影でも明らかにし得なかつた7例を提示し，その検討結果より成人例における脳室出血の病像とその出血部位の特徴について述べたい。

頸動脈圧迫によって誘発される精神運動発作の1例稲生　暁春 , 細川　邦仁 , 平野　正治 , 遠藤　正臣 , 永森　文夫 33巻10号 , 1981年10月 , pp.1007-1011

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1．はじめに

　頸動脈圧迫試験は，脳循環予備力や頸動脈洞反射亢進の有無を知る上で有効な方法であり，その陽性所見として，失神・けいれん発作などの諸種の脳循環不全症状が惹起されることが述べられている^10〜12）。しかし頸動脈圧迫による精神運動発作の記載をみない。今回われわれは高齢にて初発せる自発性の精神運動発作と同様な発作が，右頸動脈圧迫試験にて誘発されるのに，左側圧迫では誘発されない1例を経験したので，発作発現機序に関する若干の考察をも加えて報告する。

睡眠無呼吸（sleep apnea）を伴い過剰睡眠を呈した巨大嗅窩髄膜腫の1例平沢　秀人 , 構木　睦男 , 深町　彰 , 若尾　哲夫 , 林　正高 , Lilian　C．　Tormis 33巻10号 , 1981年10月 , pp.1013-1020

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1．はじめに

　睡眠無呼吸（sleep apnea）とは，覚醒時の規則的な呼吸が夜間睡眠時になると不規則となり，特に無呼吸状態になることを言う。これは正常者にもみられるが，これが頻回に出現すると夜間の睡眠に障害をきたし，夜間の不眠や日中の過剰唾眠，傾眠などをみることがある。Pickwick症候群はその代表的な疾患で，肥満による上気道の狭窄が原因と考えられている^17）。しかし，これとは別にポリグラフィー的に中枢型無呼吸を示したり，脳血管障害，Shy-Drager症候群，Creutzfeldt-Jakob病や亜急性硬化性全脳脳炎などの中枢神経系疾患にも出現することが知られており^4,8,12），sleep apneaの発現には上気道以外に中枢神経系の関与が考えられている。

　今回われわれは，嗅覚脱失，意欲低下およびsleep　apneaを伴った日中の過剰睡眠を呈した嗅窩髄膜腫の1例を経験し，腫瘍摘出前後の臨床症状と終夜睡眠ポリグラフィーの変化を対比したので報告する。

Disc電気泳動法による脳腫瘍髄液蛋白分画—病理所見との関連について河北　英詮 , 手塚　隆夫 , 黒羽根　革躬 , 田島　賢一 33巻10号 , 1981年10月 , pp.1021-1030

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緒言

　ポリアクリルアミド・ゲルを支持体とするDisc電気泳動法は，優れた蛋白分離と再現性があり，かつ髄液の濃縮操作を要せず，しかも微量の試料で行えることは，髄液蛋白分画法としてきわめて好都合である。先に100例の脳腫瘍の髄液蛋白分画について報告した^9）が，今回は合計100試料，50例の脳腫瘍の手術例について病理組織診断，大きさ，発生部位などとの関連について報告する。

脊髄後角ニューロン活動に対する中心灰白質と後部視床下部の影響渡辺　英寿 , 真柳　佳昭 , 佐野　圭司 33巻10号 , 1981年10月 , pp.1031-1036

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はじめに

　中枢神経系の電気刺激による除痛効果を初めて観察したのはReynolds^15）である。以来ラット，ネコ，サルを中心に脳のさまざまな部位につき多くの除痛実験が行なわれてきた。その結果，中脳中心灰白質より縫線核群（特にraphe magnus）に至る脳幹正中部が最も有効な部位であり，これらの部位における電気刺激が脊髄第一次中継核細胞の痛み刺激に対する反応を抑制することが見出された。上記の部位は，エンドルフィンなどモルフィン様物質の受容部位が密に分布している場所でもあることが分つてきてこの部の生理的な除痛機序における中心的な役割が想定されている。

　一方，末期癌などに見られる難治性の痛みに対しわれわれが行つている"postero-medial-hypothalamotorny"（Sanoら^16,17），Mayanagiら^11））において内側後部視床下部（以下P-Hy）をごく微弱なpulse-trainで刺激すると何らの神経学的変化，意識・感情などの変化を伴わず痛みが著明に軽減し，電気刺激の中止により再び増強する現象が認められた。われわれはこの現象と，動物における中枢刺激による除痛との関連を追求する目的で本研究を行なつた。

ラット三叉神経脊髄路核尾側亜核膠様質（substantia gelatinosa）におけるthiamine monophosphatase活性の電子顕微鏡的細胞化学的研究猪俣　賢一郎 , 小川　和朗 33巻10号 , 1981年10月 , pp.1037-1043

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I．はじめに

　膠様質（substantia gelatinosa）は，魚類以上の脊椎動物にみられ，細胞構築学的分類では，三叉神経脊髄路核（nucleus tractus spinalis n．　trigemini）の膠様質は，閂（obex）より尾側の三叉神経脊髄路核尾側亜核（nucleus　tractus spinalis n．　trigemini caudalis）表層より第2番目の層をさしている。この膠様質は脊髄後角の膠様質の吻側への延長であることは，神経解剖学的研究により周知のことである。

　1965年MelzackとWall^18）が痛みの感覚の一つの座を脊髄膠様質に求め，Gate control theoryを提唱して以来，膠様質が痛み成立機序に深く関わりを有するのではなかろうかという論議が交わされている。この機構は脊髄膠様質のみならず三叉神経脊髄路核尾側亜核にも適用され，今日，あらゆる種類のアプローチにより，神経生物学的にかなり興味ある情報が提供されつつある。

頭蓋内脊索腫6例の治療経験—急性の経過を示した2例を中心に安芸　都司雄 , 市来崎　潔 , 宮原　保之 , 堂本　洋一 , 佐藤　周三 , 戸谷　重雄 33巻10号 , 1981年10月 , pp.1045-1050

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はじめに

　頭蓋内脊索腫は，notocordの遺残組織より発生するといわれ，頭蓋底部に好発し，周囲の神経組織を圧迫しながら，緩徐に発育する腫瘍であると考えられている。脊索腫は必ずしも血管に富んだ腫瘍ではないが，病理組織学的には，しばしば腫瘍内に出血巣が認められると報告されている^{1,3,4,13,16,17）}。しかし，血管障害を疑わせるような急激な症状の変化を示したり，致命的な腫瘍内出血の報告は少ない。われわれは過去27年間に病理組織学的に確認した頭蓋内脊索腫6例を経験したが，このうち1例は腫瘍内出血で死亡し，他の1例は，くも膜下出血を疑わせる経過を示した。今回脊索腫6例の臨床経過を検討するとともに，この2例の症状経過につき詳述し，若干の文献的考察を加えたので報告する。

潜水夫に起ったLance-Adams症候群の一例吉田　義弘 , 江夏　基夫 , 音瀬　廣章 , 橋口　一英 , 上土橋　浩 , 井形　昭弘 33巻10号 , 1981年10月 , pp.1051-1056

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はじめに

　われわれは，約35mの深さを職業潜水夫が素もぐりで潜水し，溺れ，十数分海底に沈んでいるのを仮死状態で引き上げられ蘇生し，その後action myoclonusを呈した症例を経験した。本症例は，Lance-Adams症候群と考えられるが^16），巨大なsomatosensory evoked　potentialsが得られたので若干の考察を加えて報告する。

脳の粘弾性特性—衝突傷害の解析のために平川　公義 , 橋爪　敬三 , 林　毅 33巻10号 , 1981年10月 , pp.1057-1065

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1．まえがき

　脳はしばしば豆腐にたとえられる。脳を指で押すと変形するが，すぐ元へ戻る。しかし豆腐と異り，脳を取出して放置すると，長時間のうちには，脳の形は崩れ，横に広がつてしまう。脳はこのように弾性体としての性質と粘性体としての性質を併せ持つている。

　このような脳に衝撃が加った場合に，脳は如何なる応答を示すであろうか。脳傷害の発生機序については，多くの実験的理論的解析がなされ，諸説があるが，しよせん衝撃の瞬間に，脳にどれほどの圧縮力ないし張力あるいは剪断力で加わるか，または如何ほどの歪みが加われば脳組織が破壊されるかという問題に帰着する_5）。従つて脳傷害の発生限界に言及し，力学的解析を行うに当つて，脳実質の力学的性質を知ることは極めて重要なこととなるのである。

書評

—編集　竹内一夫（杏林大学教授）—標準脳神経外科学　改訂第2版都留　美都雄 33巻10号 , 1981年10月 , pp.998

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　結論から先に書くと，この「標準脳神経外科学」という本は，教科書として，非常によくできている本であるということである。

　一般に，学生や若い医師を対象とする教科書としては，平易で読みやすいこと，内容が豊富で充実していること，また読者に自分で考える機会をあたえることなどが大切だと考えている。

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海外文献抄録大友　英一 33巻10号 , 1981年10月 , pp.1066-1067

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一側萎縮の晩期合併症としての一側パーキンソニズム—新しい症候群

　一側の萎縮があり，その側にparkinsonismの症状の出現した男子4例を経験した。4例とも脳炎の既往はなく，家族歴にも問題とすべきものはなく，向精神剤の長期投与も受けていない。

　2例では周産期の外傷が想定されるが，その他の病因は全例で明らかではない。

あとがき有馬　正高 33巻10号 , 1981年10月 , pp.1069

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　今年は，国際神経学会を軸として，てんかん，脳波筋電図，その他数多くの関連した国際学会やシンポジウムが幕をあけた。多数の諸外国の学者の来訪も繁く，国内の関係者も数カ月から年余にわたりいろいろな準備にかかつてきた。

　国際集会のもつ独得な雰囲気に親しみ，文献だけで知つていた人に接し，興味を同じくする人達と個人的に意見を交換する機会をもつなどの意味で，研究やつつこんだ診療を志向する多くの人達にとつて日本で開かれる国際学会はよい機会を提供する。マンモス学会，専門家だけの小シンポジウム，一施設内の招待講演などにはそれぞれの意義があり，相補的役割りを果しているといえよう。日本は欧米人を手厚く扱い過ぎるという声もきかれるが，親切にされて喜ぶのはどこの国の人でも変りはないから，相手の迷惑にならない限度さえ心得ておけばよいのではなかろうか。

基本情報

Brain and Nerve 脳と神経
33巻10号
(1981年10月発行)

電子版ISSN：2185-405X 印刷版ISSN：0006-8969 医学書院

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