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はじめに
今回筆者に与えられたテーマは,企業風土の改革についてマインドフルネスの立場から論じるというものである。こうした背景には,GoogleやMeta(Facebook)などアメリカの名だたるIT企業で,マインドフルネスが導入されていること,こうした企業の風土が,風通しがよく,自由闊達で,イノベーティブであるとイメージされていることなどが関連しているかもしれない(実際の風土を筆者は存じ上げないが)。しかし企業風土がマインドフルネスによって変わりうるかについて,実証データをもって論じることは容易ではない。というのも,例えば,マインドフルネスを導入しているこうした企業の風土が実際にオープンで,イノベーティブであったとして,それがマインドフルネスによって培われたものなのか,あるいはすでにある企業風土がマインドフルネスの導入や展開をサポートしたのか,その因果関係は必ずしも明らかではないからである。また学術的な観点からみても,現状マインドフルネスの実証研究によるエビデンスはその大半が個人レベルのものであり,組織全体を介入対象とするものや,組織風土の改善をアウトカムに設定した研究などは筆者が知る限りほとんど認められないからである。
それでも組織というものが個人の集合体であること,マインドフルネスが個人のストレスを減らし,ウェルビーイングを高め,そして他者への思いやりも育むならば,そうした個人の集合体である組織の風土もマインドフルネスによって自ずと改善しそうでもある。
こうした課題意識のもと,今回いくつかの文献を概観してみた。結論から述べると,マインドフルネスが組織風土の改善に貢献しうることを示唆するデータはいくつか認められるものの,実証研究という観点からはまだ萌芽的といわざるを得ないというものである。しかしそれは,マインドフルネスが,組織風土の変容に貢献できる可能性を否定するものでもない。組織風土が健全であることと,組織の公正性は大きく関連するが,後述のとおり,こうした研究の中には特にリーダーや上司がメンバーに対して公正に振る舞うこととマインドフルネスとの関係を示唆する研究結果なども含まれているからである。今後こうしたリーダーの行動や認知に焦点を当てた研究が推進されることでマインドフルネスが組織に与える影響についてより精緻な知見の蓄積が期待できるかもしれない。
そこで本稿では最初に個人レベルにおけるマインドフルネスの効果について概観する。ここで個人レベルの効果を取り上げるのは,それが組織風土の改善に直接的ではないものの間接的に関与する可能性があること,また個人の状態の改善そのものが職場におけるマインドフルネスの意義として大きいものであることからである。次に,マインドフルネスプログラムが組織の風土に与える影響,特にリーダーや上司における「手続き的公正性」について先行研究を一つ紹介しこれを議論する。最後にこうした知見から,今後マインドフルネスが組織風土の改善に貢献していくためにどのような取り組みが必要かその課題について私見を述べる。
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