発行日 1950年6月15日
Published Date 1950/6/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1661906656
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和辻博士の著書「風土」には「風土とは或る土地の氣象氣候地味地形景觀などの總稱である。古くは水土とも云はれて居る。環境としての自然を地水火風として把捉した自然觀がこれらの概念の背後にひそんで居るのであらう」と書いてある。生物はこの風土という自然環境に生活しているのであるからその欲すると否とに拘らずその影響を蒙る事は必然的である。從つて風土の異るに從いその生物も異る事は不思議でない。一寸樹木欝蒼たる常夏の熱帯と滿目荒凉たる極地の風物との兩極端を思い浮べて戴きたい。其處に住む人類にも有色人種があり白色人種がある。又同色人種でも南歐人種と北歐人種,我邦ならば九州人と北海道人とを比較するならばその身體的並に氣質的の差は著しい。我國には古來山紫水明の境は偉人を産すると言われているが此の間の消息を物語つている。米國のハンチントン博士は樹木の年輪から過去の降雨量を推測し此の事から更に羅馬帝國や中國興亡の歴史を氣候風土の變化によつて説明せんとしている程である。
然し,又一方人間は風土の如何に關せず地球上至る處に生活しており人間の住まぬ土地は砂漠高山の山巓兩極地位のものと言われている。人は各々自分の郷土を住めば都と觀じて幾多の災害を蒙つても其の郷土を戀々として去り兼ねて安住している事を思えば風土は意に介さなくてもよいように思われる。
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