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胃食道逆流症(gastroesophageal reflux disease:GERD)の有病率はわが国でも1990年代後半より著明に増加してきた。その原因として日本人の酸分泌能亢進やHelicobacter pylori(H. pylori)感染率低下,GERD疾患概念の確立などが考えられる。その後,日本人の酸分泌能は横ばいであることや非びらん性胃食道逆流症(non-erosive reflux disease:NERD)概念の普及などがGERD有病率上昇の歯止めの要因となっている。しかし,除菌療法の普及や睡眠障害の増加によって,現在でもGERD有病率は緩やかな増加傾向にある。筆者は1995年からGERDの研究を開始し,さまざまな研究成果を報告してきたが,最近では好酸球性食道炎(eosinophilic esophagitis:EoE)に注目している。その契機となったのは,嚥下困難を訴えた30歳代女性症例の経験である。6年前より食べ物がつまる感じが出現し,上部消化管内視鏡検査を受けたが,異常は指摘されなかった。食事の際は水で流し込んでいたが,症状が増悪してきたため当科に紹介となった。その際,食道造影で異常はなく,アカラシアを疑って食道内圧検査を実施したが,特に異常は認められなかった。上部消化管内視鏡検査で食道胃接合部(esophagogastric junction:EGJ)の著明な狭窄がみられたためクローン病などを疑ったものの,超音波内視鏡検査で第1~第3層が肥厚しており,生検をしたところ,食道上皮内に多量の好酸球浸潤(>100/HPF)が認められ,microabscessも形成していた。本例では様々なアレルギーを有しており,プリックテストではマグロや卵白などで陽性を示していた。フルチカゾン嚥下療法を8週間行ったところ,狭窄は残存していたものの,組織学的には改善し,スコープも通過できるようになった。厚生労働省研究班のEoE診断基準2015年版では,食道機能障害に起因する症状があって,食道粘膜の生検で上皮内に好酸球数15/HPF以上存在していれば診断ができるとされている。この症例の経験後,1ヵ月ほどで同様の2症例に遭遇した。1例は逆流性食道炎によるびらんを合併していたが,食道中上部に縦走溝があり,生検で好酸球浸潤が認められた。この症例はプロトンポンプ阻害薬(proton pump inhibitor:PPI)投与により治癒した。もう1例は中下部に白斑,縦走溝があり,好酸球が著明に浸潤していたが,無症状であった。これらの経験から,EoEはわが国でも決して稀な疾患ではないかもしれないと考え,EoE研究に着手した。
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