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膵癌が浸潤しやすいのに対し,膵管内乳頭粘液性腫瘍(intraductal papillary mucinous neoplasm:IPMN)は浸潤せず,一般に予後がよい。この腫瘍の性格の違いから,膵癌進展に関与する因子を発見できるかもしれないと考え,研究を始めた。まず遺伝子を調べたところ,IPMNでは膵癌とほぼ同程度にK-RAS遺伝子の変異が認められた。一方で,転移を示すような膵癌で非常に高い発現を示すHER2遺伝子は,IPMNにおいても発現が認められた。p53についても,膵癌とIPMNともに異常発現が認められた。また,18番遺伝子の長腕の欠失は膵癌のほとんどの例でみられるが,IPMNにおいてもみられることがわかった。これらに加え,当時の解析ではみつけられなかった差異であるが,GNASという遺伝子がIPMNにおいて特異的に変異しているということが判明している。次に,膵癌の転移の過程について精査した。膵癌の転移は,癌細胞が基底膜を破って膵臓の間質に潜っていくことから始まると考えられている。この過程に関与するものとして,matrix metalloproteinase(MMP)という酵素群が報告されていた。MMPにはⅠ型コラーゲンを溶かす酵素とⅣ型コラーゲンを溶かす酵素が含まれる。当時,癌の研究において間質はそれほど重要視されておらず,MMPのような酵素は癌細胞で発現していると考えられていた。ところが,Ⅳ型コラーゲンを溶かす酵素に着目して膵癌を調べてみたところ,確かに癌細胞でもMMP-2の発現はみられるものの,同時に周囲の間質でも強く発現していることがわかった。また,膵癌に限らず,基底膜が消失するような癌では間質でのMMP-2の発現が強いこともわかった。一方で,基底膜が保たれるIPMNにおいては,腫瘍ではMMP-2の発現があるものの,間質では発現していないことが観察された。以上のことから,浸潤癌における基底膜の消失には,間質におけるMMP-2の発現が重要な役割を果たしているのではないかと考えられた。
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