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通常,腹痛や腹部不快感を訴える患者に対して臨床像のみで器質的疾患か否かを鑑別することは困難で,まずはさまざまな検査を実施する。しかし,検査で器質的異常が認められないことも多く,このような場合は過敏性腸症候群(irritable bowel syndrome:IBS)など機能性消化管障害と診断することになる。2016年に公刊されたRome Ⅳでは,機能性消化管障害は死に至る疾患ではないが,quality of life(QOL)が障害されることが要治療の根拠となっている。本疾患は,たとえば日常的なストレスや心理状態が神経系を介して消化管運動や内臓知覚に影響を及ぼし,症状や疾病行動が生じると理解されている。したがって,消化器内科で対応する疾患といえども,中枢神経と消化器,すなわち脳腸相関の理解が必要となる。本疾患は非常に頻度が高く,QOL低下が顕著であり,睡眠障害やうつ状態といった精神的な問題を抱えることが非常に多いという臨床的特徴があり,目にみえる異常がないことが1つのキーワードとなる。そして,病態,治療に未解明の多くの問題が残されている。内臓知覚を含めた消化管機能の制御に関する知見は非常に少ない。通常,消化器内科医は目にみえる異常をみつけ,それに対処するというストラテジーであるが,本疾患に限ってはそのストラテジーでは対応できないことが大きな特徴といえる。1973年のGutに,直腸にバルーンを挿入し水を加えていくと,健常人は約60ccでは全く痛みはなく,約100ccで2人に1人が痛くなり,約300ccで全員が痛みを訴えるが,IBS患者は約60ccで2人に1人が痛くなり,約100ccで全員が痛くなることが報告されている。健常人には軽微な刺激でも,IBS患者は非常に大きな刺激と感じるということで,この内臓知覚過敏がIBSの本態であると40年以上前に提唱された。現在もこの仮説が,検査では異常はないが,腹痛が生じるIBSの病態の主要因だろうと考えられている。しかし,内臓知覚過敏の詳細な脳内メカニズムは,残念ながらいまだほとんど明らかにされていない。ただ最近はfunctional MRIにより,脳内機能の評価が可能となっている。2011年にGastroenterologyで報告されたメタ解析では,IBS患者は直腸伸展刺激によって前帯状回,島皮質,中脳中心灰白質,扁桃核の活動が亢進していることが示された。これらの部位は内臓知覚を受容する部位であり,IBSでは健常人に比べて知覚受容部位の神経活動が亢進することが問題であるとわかってきた。
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