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はじめに
妊娠中に血圧正常で経過し,分娩中に初めて高血圧を認めた場合をこれまでは「分娩時高血圧」という状態で表し,どこにも分類されていなかったが,現在のわが国のガイドラインでは妊娠高血圧症候群(hypertensive disorders of pregnancy:HDP)と診断する。2018年にHDPの定義および病型分類が改定され,妊娠高血圧腎症(preeclampsia:PE)は妊娠20週以降の高血圧に蛋白尿,もしくは蛋白尿がなくても母体の臓器障害や子宮胎盤機能不全を合併する病態として再定義された。つまり,「分娩時高血圧」も分娩中や前後の母児の状態を考慮してHDPの病型を診断し,それに応じた対応をとる必要がある。2010~2015年にわが国でのHDPによる妊産婦死亡は30名(4.8/100万分娩)であり,脳実質内出血22例,くも膜下出血3例,肝被膜下血腫2例,周産期心筋症2例,子癇1例であった。そのうち分娩中の発症は12例(脳実質内出血11例,子癇1例)であった。分娩週数は36~41週で来院時の収縮期血圧149(118〜205)mmHgであったが,発症時の収縮期血圧188(170〜230)mmHgと有意に上昇した。もともと非重症高血圧であった4例が収縮期血圧≧160 mmHgを認めてから意識障害の発症まで67(0~174)分,症例全体の83%は120分以内であった。意識障害後の胎児心拍数陣痛図(cardiotocogram:CTG)は子宮内胎児死亡1例,高度遷延一過性徐脈4例,徐脈1例であった1)。妊娠関連脳卒中の発症率は約30/100,000例とされ,非妊時の2~3倍とされる。虚血性脳卒中〔12.2,95%信頼区間(CI)6.7〜22.2〕,脳静脈血栓症(9.1,95% CI 4.3〜18.9),出血性脳卒中(12.2,95% CI 6.4〜23.2)の発生率はほぼ同等であった2)。HDPはあらゆるタイプの脳卒中のリスク因子であり,HDPを有する妊婦は正常妊婦の約5倍の発症率であった。

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