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はじめに
繊毛※は,ほとんどの真核生物の細胞表面から突出した微小管(microtubule:MT)構造をもつ細胞小器官である。繊毛は高速な波動運動を行う運動性繊毛と,非運動性繊毛の2種類に分類される。運動性繊毛は気管上皮・卵管上皮・脳室上衣細胞,精子などが細胞あたり1本から数百本もち,その内部構造は,周辺の9本のMT,中央の2本のMT(9+2構造)から成る軸糸で構成されることが知られている(図-a)。これらの運動性繊毛は繊毛の動きにより移動運動,体液循環および異物の排除などにかかわっている。これに対して,非運動性繊毛は生体内のほとんどの細胞に1本だけ生えており,中央にMTがない9+0構造である(図-b)。非運動性繊毛は1898年に顕微鏡観察により同定されていたが,不動なことからも痕跡的な構造物とみなされてきた。その後,非運動性繊毛は一次繊毛(primary cilium)と名づけられ,2000年以降に一次繊毛の機能が徐々に明らかにされ,細胞外のシグナルを受信して細胞内に伝達するアンテナの役割を果たし,その結果,発生,分化,成長,代謝など,さまざまな生命機能を調節していることが報告された1)。これらの役割が破綻すると,網膜変性,囊胞腎,内臓逆位,小頭症,多指症,知的障害,骨格欠損など,一次繊毛のさまざまな機能を反映した多くの臨床症状を引き起こす。このため,このような繊毛が原因の疾患を “繊毛病(ciliopathy)” と呼ぶようになった2)。このように一次繊毛の重要性と特殊性が明らかになり,多くの研究者の注目を集めることとなったが,一次繊毛の構造や機能には未知の部分が多く残されている。また,繊毛病の治療法も開発されておらず,今後の研究の進展が期待されている。
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