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はじめに
MGRS(monoclonal gammopathy of renal significance)は,2012年にInternational Kidney and Monoclonal Gammopathy Research Groupによって提唱された比較的新しい概念である。血液学的に多発性骨髄腫や慢性リンパ球性白血病の診断・治療開始基準を満たさないものの,腎毒性のあるモノクローナル免疫グロブリン(M蛋白)が産生され,後述する複数の機序で直接的もしくは間接的に腎病態を引き起こすB細胞または形質細胞のクローン性疾患のことを指す。なお,ここでいうクローン性疾患とは,形質細胞もしくはB細胞の単クローン性増殖により,単一の免疫グロブリンクラスに属し,かつ単一の型の軽鎖(L鎖)を有する異常免疫グロブリンが産生されている,いわゆる単クローン性免疫グロブリン血症(monoclonal immunoglobulinemia,monoclonal gammopathy)の状態である。このMGRSによる腎障害は,① 通常の自己免疫疾患に付随する腎炎などでわれわれが用いるような免疫抑制薬では全体として効果が乏しい1,2),② 腎移植前または移植直後までにM蛋白が除去されていない場合に約90%ともいわれる高い移植後再発率を呈する3,4),③ のちに血液疾患に移行するリスクがある5,6),などの特徴を有している。多発性骨髄腫の患者の約半数が全経過中に何らかの腎障害を呈するという報告があるなかで7),血液疾患としての定義を満たさないまま腎障害を起こすMGRSは,今まで治療導入が遅れることも多かった。実際,PGNMID(proliferative glomerulonephritis with monoclonal IgG deposits)患者37名を対象とした後ろ向き研究では,38%が慢性腎臓病を呈し,22%が末期腎不全に至っており8),患者の多くは骨髄腫の標準的な治療を導入されていなかったという報告もある。実際の臨床の現場では尿所見異常・腎機能低下など,血液疾患としての側面ではなく,腎疾患の側面から精査に至ることも多いと思われ,血液内科専門医のみならず,より広い領域での疾患概念の理解がますます必要な分野である。
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