連載 話したくなる 整形外科 人物・用語ものがたり
第5回
「内外合一 活物窮理:日本の近代外科学を作り上げた華岡青洲の麻酔薬と整骨術」
小橋 由紋子
1
1東京歯科大学市川総合病院放射線科
pp.1410-1411
発行日 2022年12月19日
Published Date 2022/12/19
DOI https://doi.org/10.18885/JJS.0000001235
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ケガや病気で苦しいとき,痛みがなければ頑張れそう,そう感じるのは古今東西同じである。かつての治療は(といっても今も,だけど)患者に痛みを我慢させなければならないことも多い。痛みのない治療,痛みのない手術は昔から人類の夢であるといえる。麻酔薬の歴史を紐解くと,実は紀元前から痛みをとる薬というのは存在していた。紀元前4000年にはヒヨスという臭気のある植物で鎮痛・鎮静作用があり,メソポタミア南部で抜歯に使われていた。これはシュメール人の粘土板から証明されている。その後,紀元前300年頃にはアヘン,ヒヨス,マンダラゲを用いた催眠海綿を用いて麻酔を行っていた。その他,大麻,ケシ,マンドラゴラ,大量のアルコールなども使用され,意識消失や鎮痛薬として内服されていた。ヒヨス,マンドラゴラ,マンダラゲはナス科の植物であり,アトロピンやスコポラミンといったアルカロイドが含まれている。大量摂取で精神混濁のような睡眠ができたと思われる。ケシは麻薬であるモルヒネやコデインを含む植物である。大量使用で催眠や現在の麻酔に近い状態になると考えられる。このような物質を用いての麻酔は紀元前4000年から1840年代まで,6000年間続いた。1840年代になると亜酸化窒素(笑気),エーテル,クロロホルムなどの揮発性物質による吸入麻酔薬が使われるようになる。静脈麻酔薬は1930年代になってからである。ちなみに,マンダラゲ(チョウセンアサガオやキチガイナスともいう)は華岡青洲が完成させた麻酔薬「通仙散」の主成分である。これに,トリカブト,ビャクシ,トウキ,センキュウといった漢方薬を加えて完成する。
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