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は じ め に
診断群分類別包括評価制度(diagnosis procedure combination:DPC)の導入により,急性期病院における長期入院は経営的に問題視されている1).当然,大腿骨近位部骨折(以下,本骨折)もその例に漏れない.筆者は前任地にて本骨折の入院日数に関する研究を行った2,3).医学的観点からは長期入院患者に周術期合併症が多いことを報告した2).そもそも長期入院と合併症は卵と鶏の関係にあるのかもしれない.つまり,合併症のため入院期間が長期化しているとともに,入院期間が長期化しているために種々の合併症が生じている側面も否めない.
現実的には行うべきではないものの,後方病院(本稿では,回復期病棟などの転院先のことを呼称する)さえ整備されれば,大半の整形外科疾患は日帰りもしくは一泊入院で対応可能という意見もある4).医療資源は無限ではない.リハビリテーションが治療よりも優先される状態ならば,後方病院で合併症に対する治療が行われるのが理想的である.急性期病院は手術や集中治療などの専門的かつ高度医療に集中できるからである.
筆者は論点をシンプルにするために,純粋に日数という数字だけに着目することにした.そして,本骨折の長期入院についてこの観点から検討を加えた3).言い換えれば,転院までに行われる業務のプロセス(以下,転院プロセス)を,責任者に注目しながら細分化し,転院調整の躓きを明らかにした(図1)3).具体的には転院プロセスを,① 入院する→② 主治医が耐術性を評価し手術を行う→③ 主治医が医療連携室(以下,連携室)へ転院調整を依頼する→④ 連携室が他院(あるいは施設や自宅へ)へ転院調整を開始する→⑤ 当院から他院(あるいは施設や自宅へ)へ移動するの5つのステップに分け,その間の4つのセグメントに分類した.
本稿では,この4つのセグメントをα,β,γ,δと定義した.αは術前待機日数そのものであり,αの短縮化は早期手術と同義である.早期手術の実現には麻酔科,内科,手術室,放射線部,臨床検査部などの各診療科や各部署の協力が不可欠である.病院の総合力が問われれているといってもよい.βは医師が転院指示を出すまでの期間であり,γはその指示を連携室が受諾するまでの期間である.βを規定する者は整形外科であり,γを規定する者は連携室である.δは連携室が転院調整を開始して,実際に移動するまでの期間である.現場の人間は「手術が終わり,後は転院するのみ」と考えており,現場感覚での待機期間といえる.転院は転院先の了承があって成立する.δを規定する主な者は転院先であるが,院内の実働部隊は連携室である.これは,病院はもちろん地域全体の総合力が問われているともいえる.筆者は既報で本骨折の転院プロセスを検討し,長期入院の主因がδであることを報告した3).
当院ではコマネジメント,あるいはhospitalist/orthopedic surgery co-management(HOCM)と呼ばれる整形外科医と総合診療医の共同管理が行われている5,6).筆者はHOCMが急性期整形外科の在院死亡率を低下させ,これがタスクシフト/シェアとして有用であることを報告した6).HOCMには,本骨折の入院期間を短縮させる効果が期待される7).しかしながら,システマティックレビューの結果はその期待に反し,明確なエビデンスを示していない8).文化的背景や医療制度が同じ本邦からの報告を振り返っても5,9~16),HOCMなどの積極的な内科介入の効果は賛否両論である.つまり,肯定的意見9,11,14)と懐疑的意見5,10,12,13,15,16)が存在し,コンセンサスは得られていない.そして転院プロセスを詳細に検討した文献はない.
本稿の目的は,HOCMが行われている当院における転院プロセスとHOCMが行われていない既報3)とを比較し,当院の本骨折の入院日数の現状を調査し,問題点を論じることである.
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