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は じ め に
未曽有の超高齢社会を迎えたわが国にとって,大腿骨近位部骨折は臨床上もっとも重要な骨折の一つである.ガイドライン1)によると,その患者数は2030年に29万人/年,2040年に32万人/年に達し,30日死亡率は2.9~10.8%,1年死亡率は2.6~33%とされている.仮に患者数を30万人,30日死亡率を5%と仮定すれば,1万5千人が急性期病院を死亡退院することになる.本骨折患者は高齢であり,心不全や腎不全などの臓器不全を抱えている.骨粗鬆症や易転倒性を運動器の臓器不全ととらえると,われわれの治療対象は複数臓器の機能が低下している高齢者である.これらを一元的に考えれば,本骨折は非癌疾患の終末像の一つとみなせる.つまり,本質的には誤嚥性肺炎や心不全と類似した病態といえる.
高齢者医療を語るうえで,人生の最終段階におけるケア(end-of-life care:EOLC)に関する議論を避けて通ることはできない2~16).千葉大学大学院看護学研究院はEOLCを診断名,健康状態,年齢にかかわらず,差し迫った死,あるいはいつかはくる死について考える人が,生が終わるときまで最善の生を生きることができるように支援すること,と定義している5,6).アドバンス・ケア・プランニング(advance care planning:ACP)はその中心となる概念である.厚生労働省はACPを人生の最終段階における医療ケアについて,本人が家族らや医療・ケアチームと繰り返し話し合う取り組みとしている7).コードステータスに関する話し合い(code status discussion:CSD)はACPの一部であり,心肺停止時の蘇生に関する方針に関する議論のことをさす3).あらゆる医学的処置は開始にあたり医師の指示を必要とするが,心肺蘇生は唯一医師の指示なしに開始することができる処置であり,逆に開始しない場合や中止する場合には医師の指示が必要となる4).
多死社会を迎えたわが国の医療現場において,CSDから目を背けることは単なる現実逃避である.しかしながら,わが国の急性期病院において,本骨折患者に対するCSDを検討した報告はない.本稿の目的は,当院におけるCSDの実際を調査し,大腿骨近位部骨折患者におけるCSDの意義を検証することである.
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