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は じ め に
日本は,20世紀後半に著しい経済成長を遂げた結果,平均寿命も伸長し,2019年には男性81.41歳,女性87.45歳と世界でも有数の長寿国となっている.長寿化に加え少子化がすすんだことで日本は超長寿社会となり,健康寿命の延伸が重要な課題となっている.21世紀に入り,平均寿命と健康寿命の間には,男性で約9年,女性で約12年の差が存在する.健康寿命の定義を介護保険制度の使用開始時期と考えた場合には,人生の最後の約10年間は,自分一人では自由に移動することが困難であり,その機能の維持や回復,そして悪化を防ぐためには何らかの他人の助けが必要となっていると考えることができる.つまり,人間はこの世に生まれてから約1年間を経て,自分の「あし」を使って歩くことができるようになるが,人生の最後の10年間は自分一人での移動が自由ではなくなり命が終わるという過程が一般的になっているといえる.そして長寿化は,今後もさらにすすむと推定されており,近い将来には人生100年時代を迎えることになると考えられている.
このように,人生100年時代の到来がすぐそこまできている現在,「自分のことは自分でできるからだでいたい」とか,「家族や友人といつまでも外出や旅行をしたい」など,自らの移動機能を生涯維持し続けることを,われわれは希望している.
しかし,現実は自らの移動機能を生涯維持し続けることは決して容易ではない.脳血管疾患や認知症と並び,運動器疾患が介護保険制度の利用開始の主たる原因となっている1).高血圧,糖尿病,高脂血症など,メタボリックシンドロームの主たる原因となる疾患の早期診断と早期治療が,その合併症である脳血管疾患の発生と重症化予防に大きく寄与したことから考えると,寝たきり予防そして健康寿命延伸の実現には,骨粗鬆症,変形性(膝)関節症(OA),脊柱管狭窄症などのロコモティブシンドローム(ロコモ)の主たる原因疾患の早期診断と早期治療を目指すことがきわめて重要な課題であることが理解できる.脳血管疾患と認知症,そして運動器疾患が主に高齢者の寝たきりを招く疾患群であることを念頭に,その危険因子の解明と対策を示すことで健康寿命の延伸の実現に寄与することを目的に,本学では大規模住民コホート研究を実施中である.
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