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は じ め に
人工股関節全置換術(THA)は,変形性股関節症や大腿骨頚部骨折に対する除痛・機能改善効果を示す.その実施数は増加傾向にあり,2050年には経済協力開発機構(OECD)加盟国で年間280万件の実施が予測されている.人工股関節の長期生存率は,インプラントの改良により大幅に向上してきた.一方,人工関節の挿入には一定の技術を要し,合併症とその発生率の施設間格差が存在することが大きな課題である1,2).この課題が存在する原因の一つとして,インプラント挿入手技が術者の経験や主観的判断に依存して実施されていることにある.術者が強く叩き過ぎれば医原性骨折が生じ,不十分な叩打では非適合嵌合となり弛みが生じる.また,ステムの異方向挿入では,設置不良,医原性骨折や弛みといった合併症につながる.このような合併症発生率は約5~20%とされており,低く見積もっても年間14万人が合併症を被ることになり,世界的に喫緊の課題である.
そこでわれわれは,経験や主観的判断で実施される手術手技を,客観的な指標に基づく手術手技への変換を着想した.具体的には,ブローチングや人工股関節挿入時の,骨とインプラントの物理的な状態を客観的な指標により計測し,その客観的指標を術者が把握しながら手術を行うことで,手術がより安全に行えると考えた.そして,人工関節挿入中に発生する「カンカン」や「ゴンゴン」といったハンマーによるハンマリング音を,骨とインプラントの物理的状態の間接的な指標としてとらえ,音響学的解析により正常音・異常音に違いがあると仮説を立てた.
本稿では,われわれの今までの研究により明らかとなったTHA施行時に集音したハンマリング音に関する知見と実用化に向けた今後の展望に関して述べる.
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