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は じ め に
人工股関節全置換術(THA)は,手術アプローチや正確なインプラント設置技術の向上により徐々に適応が拡大されてきている.Dual mobility cup(DMC)はフランスで開発されたインプラントで,大径のポリエチレンベアリングのなかに小径骨頭を入れることで二つの摺動面を有し,長いjumping distanceと広いoscillation angleを得ることができる(図1)1).その結果,優れた脱臼抵抗性と広い可動域を有することが可能になった.そのため,Parkinson病や認知症,脊椎固定後や強直性脊椎炎,再置換THA,転位型大腿骨頚部骨折といった脱臼リスクが高い患者に対するTHAのインプラントとして期待されている.わが国おいて,DMCは2013年に発売され,われわれはこれまでにその有効性と安全性を報告している2~7).
近年,モジュラータイプのDMCではチタンカップとコバルトクロムのメタルバックとの間でのcorrosion(腐食)や金属(コバルトおよびクロム)イオンの血中濃度上昇が危惧されている.Gkiatasらは術後平均27.4ヵ月の血中イオン濃度測定を行い,コバルトおよびクロムともに上昇傾向はあるが有意な上昇はなかったと報告している8).一方,われわれはAccolade TMZF(Stryker社)とメタルヘッド(コバルトクロム)を使用したTHA後(平均7.2年)の血中コバルトイオン濃度を測定し,32mm・36mm・DMC(内径22mm,28mm)の骨頭径の3群間で比較・検討した.DMC-THAで血中コバルトイオン濃度は32mmより有意に低く,36mmでは有意差はなかった.また,32mmは22%,36mmは10%で異常な血中コバルトイオン濃度上昇を生じたが,DMCでは0%であった.高齢者への使用という限定的な条件ではあるが,DMC-THAの安全性を報告している7).
われわれは,当初70歳以上の症例や転位型大腿骨頚部骨折に対しDMC-THAを施行していたが,これまで脱臼を経験していない.現在は70歳以下であっても,前述した脱臼リスクの高い症例では積極的にDMCを使用している.われわれはレッグポジショナーを使用した仰臥位前方アプローチ(DAA)を基本とし,術中透視は使用するが,ナビゲーションは使用していない.術後に脱臼予防のための肢位の指導や制限も特別には行わず,術翌日から全荷重でのリハビリテーションを許可している.当施設でのDMCの適応を臨床成績とともに紹介する.
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