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は じ め に
手根管症候群(CTS)は,手根骨と靱帯で囲まれた手根管で正中神経が圧迫され,その支配領域である母指~環指橈側の手指にしびれを呈し,進行すると母指球萎縮に伴う母指運動障害が生じる疾患である1).母指の機能は上肢の機能の約50%を占めるとされており2),その障害により日常生活や生活の質(QOL)に深刻な影響を及ぼす可能性がある.しかし,症状が緩徐に進行するため,患者の症状の自覚が遅れ,重症化してから医療機関を受診することも多い.また,長期にわたる罹病や術前の重症度が高いことは術後の予後不良因子であることから3),CTSの早期のスクリーニングが重要である.
CTSのスクリーニングには,携帯型神経伝導検査装置や振動計,サーモグラフィなどのデバイスを用いた報告がある4~6)が,専用の特殊なデバイスが必要である.近年,スマートフォンやタブレット端末が普及し,医療現場でも利用も広がっている.また,機械学習の発展に伴い,非常に多くのパラメータを解析に組み込むことで,精度の高いスクリーニングシステムの開発が可能となっており,スマートフォンやタブレット端末を用いて,機械学習を応用し,CTSによる母指運動障害や書字障害に着目したスクリーニング法が報告されている7~9).これらの手法はモバイル端末を使用することで,アクセシビリティが高く,日常生活内で利用するスクリーニングツールとして有用である.
CTSでは,母指球の萎縮がない患者でも,手指の使いにくさを訴えることが多いが10),その機序は十分に解明されていない.われわれは過去に指ごとの握力を計測できる握力計を開発し,握り動作を評価したところ,CTSでは母指球萎縮がないような軽症例でも,指の動きに変化が生じていることを報告した11).そこでわれわれは,CTS罹患に伴う手指の動きの変化に着目したスクリーニング法の開発をめざした.

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