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Ⅰ.はじめに
助産婦教育のなかでは,助産学実習として分娩介助実習に関する比重は,肉体的にも精神的にも重く,教員・臨地・学生にとりどのような方法で実習を展開することが最良であるのか,常に試行錯誤しているのが現状である.
筆者らは,第1報として全国96教育機関に対し,分娩介助実習に関するアンケート調査を実施し,得られた結果を発表した(渡邊,2000).そこで明らかになったことは,分娩介助例数を10例とすることが,実習の目標および計画をたてる根本に位置付けられているということ,現実的には分娩介助事例数は5例から13例という学校差があり,異常分娩も含んでいる場合も多いということ,そして,分娩介助に関する基本的な能力を培うため,しかも10例を目標とするためには複数の施設で,夜間実習,期間延長実習を行わざるを得ない,という現実に直面した.10例という数の問題は依然重要な問題である.限られた対象数の実習のなかで学生の学習成果が目標に到達するためには,なにを評価視点とするのかということが大切である.評価をより客観的な指標とするために,各校独自の評価表を作成し到達目標を決める,ということが行われている(小山,1993;久米,1989;常盤,1990;松村,1990).
本研究では,学生の学習成果をみるひとつの視点として,精神面のストレス反応の経過を考えた.つまり,例数を重ねることにより達成できることとして,見た目の技術の上達からのアプローチのみではなく,精神面のストレス反応の経過をより客観的に観察していくことも大切なアプローチの視点と考えたのである.分娩介助の場面では変化の激しい産婦の状態に合わせて,冷静に判断し,的確に行動することが要求される.それは,知識と技術の両面が応用されてはじめて実現し,その際に人間は不安や緊張を覚える.それが未知の出来事であればあるほどその緊張や不安は大きい.何もかもが初めての体験である実習に緊張感はつきものであり,逆に緊張感がなければ集中力や判断力が劣る.
一方,過度の緊張や不安は知識や技術の混乱を招き,本来の能力が発揮されず失敗を繰り返すという悪循環にも陥る.理想的には,学生が本来の能力を可能な限り発揮できる程度の「適度な緊張」で保たれた精神面の状態であることが望ましいといえる.しかし,「適度な緊張」というものがどの程度であるか,という指標はなく,しかもそれを客観的に測定する,ということは非常に困難である.少なくとも,精神面のストレス反応の経過を,主観的にも客観的にも測定することができれば,それを評価方法として,さらによりよい分娩介助実習のありかたを考え,しかも学習成果をみるひとつの視点にもなり得るのではないか,と考えた.
精神面のストレス反応を評価する方法としては,不安調査や疲労調査などの本人の主観的な自覚症状をとらえて評価し,報告しているものがほとんどである(小野,1987;川崎,1996;佐藤,1990).本研究ではそれに加えて,心拍数という生体の生理的反応を測定することで,より客観的にストレス反応の経過をみる試みをした.分娩介助例数を重ねていくことで「過度の緊張」であった状態から,「適度な緊張」状態へと変化し,主観的にも客観的にも精神的なストレスが軽減していくのではないか,という予測をたて研究に取り組んだ.
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