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はじめに
義手は手の機能を代償するものであるが,手は人体の中で最も繊細な器官であるがゆえに,その複雑な機能を代償することは極めて困難である.従って,「義手の有用性」は切断者自身が判断するものである.それでは「義手の可能性」は誰によってもたらされるのであろうか.紛れもなく医療従事者である.明確なことは医療従事者が義手の導入を何らかの形で切断者に行わなければ,「義手の可能性」は封印されてしまうということである.「義手の可能性」の先にあるのが「義手の有用性」である.「義手の可能性」を導く責務を担っていることを我々医療従事者は真摯に受け止めなければならない.
その責務を十分に担ってきたのであろうか.中島ら1)や川村らの調査においても2),日本で作製される義手の約80から90%が装飾義手であった.義手が「使える義手」として日本で定着していないことが伺える.なぜ定着しなかったのか.日本は従来より能動フック式義手や作業用義手が存在していたはずであるが,それらの義手は役に立たないのであろうか.そして,欧米ではすでに「使える義手」としての筋電義手が普及しているが,なぜ日本で普及が遅れているのか.
「使える義手」が普及しない理由として一般的に以下のことが言われている.片側上肢切断者の場合,工夫をすれば日常生活の大部分は非切断肢で可能である3).さらに従来の能動義手は手先具にフックを使用しており,その外観に抵抗を覚える切断者は少なくなく,敬遠されてきた.しかし,果たして切断者は「義手の可能性」を示され,そして自ら「義手の有用性」を判断して義手の使用を断念したのであろうか.治療と訓練を担当する医療従事者が義手について十分な経験と知識を有しておらず,切断者を適切に導いてこなかった結果ではなかろうか.一方では,ある程度の装飾性と作業性に優れている筋電義手が欧米並みに普及しなかったことが理由として挙げられる.川村らの報告2)によると,実に切断者の70%以上が筋電義手の装着を希望しており,切断者は実は「使える義手」を切望していることを裏付けている.ちなみに筋電義手の普及状態を欧米諸国と比較すると,片側前腕切断者に限れば,義手の中で筋電義手の占める割合は,アメリカで25~40%,ドイツで70%,イタリアで16%であった4).日本では僅か2%であった2).
このように日本で能動義手や筋電義手といった「使える義手」の普及が著しく遅れた背景には,義手の専門的訓練を切断者に提供できる専門施設が極めて少なく,切断者が「義手の有用性」を認識できない状況が挙げられる.
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