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第19回日本言語聴覚学会において,摂食嚥下障害における姿勢調整を検証するシンポジウムを設けさせていただくことができた.貴重な機会を与えてくださった大会長の中野徹先生はじめ事務局関係者の皆様に,心より感謝申し上げる.
わが国では,摂食嚥下障害に対するリハビリテーションに言語聴覚士がかかわるようになって30年余り,そして言語聴覚士法の中に嚥下訓練が言語聴覚士の業務として明記されてから20余年となる.この歴史の中で,最も広く頻繁に用いられてきた手技のひとつが姿勢調整(postural changes)といえよう.姿勢調整の手技は種類も豊富で,頭頸部の屈曲/伸展,体幹角度の調整(リクライニング位),頭部回旋,頭部傾斜,種々の角度による側臥位などが挙げられる.患者への指導も比較的簡単な指示で済み,臨床現場での実施が容易であることから,高い実用性を有している.しかし,臨床現場の実状を改めて眺めてみると,科学的な根拠に基づいた手技の適用がなされているとは言い難い.例えば,スクリーニング検査で3mlの水を飲んだ患者がむせたとすると,直ちに「30°ギャッジアップ,ゼリー」(患者の体位を床面から30°上げたリクライニング位とし,摂取させる食物の物性をゼリーとすること)が選択されることがある.あくまでも患者の病態に基づいての判断であれば問題はないが,病態が十分に考慮されず,「30°ギャッジアップ」と「ゼリー」が万能な“安全姿勢”であり,万能な“安全な食品”であるとの思い込みが臨床家の根底にあると危惧されるケースも見受けられる.そのため,今回のシンポジウムは言語聴覚士が日頃用いている姿勢調整について,目的(意義),効果や有効性(エビデンス),臨床現場の現実や課題,適応とならない患者や疾患,今後の展望(将来求められる研究)などを検証するためのご講演を演者の先生方からいただき,さらには「言語聴覚士として心しておかなければならないこと」を会場全体で討論することを目指した.
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