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2018年(平成30年)の日本人の平均寿命は男性81.25歳,女性87.32歳になりました(2019年厚生労働省発表).2019年(令和元年)には,100歳以上の高齢者が7万人を超えました.日本は超高齢社会になりました.巷には「老い」に関する本があふれています.私の本箱にも『老いの意味—美わしい老年のために』(ポール・トゥルニエ著,ヨルダン社),『老いの品格』(松永伍一著,大和書房),『老いる勇気—これからの人生をどう生きるか』(岸見一郎著,PHP研究所),『老いること,死ぬこと』(鍋谷堯爾他著,いのちのことば社)等のタイトルが並んでいます.老いに関する本を読んで感じることは,「老い」の捉え方が著者によってかなり違うということです.「老い」を受け入れる生き方と,「老い」に挑戦する生き方とでは日常生活の過ごし方がかなり違います.どんな老い方をするのがよいのか,どんな老い方が自分らしいのかをじっくり考えることが,この超高齢社会においては大切なのではないでしょうか.
老い方を考えるためには,「老い」について知る必要があります.長い間,精神科医,内科医,ホスピス医として臨床,研究,教育に携わってきた者として,老いを身体,心,魂,社会という4つの側面から観たいと思います.そして本連載全体を覆う空気として「育む」というキーワードを使いたいと思います.「育てる」と「育む」は微妙に違います.「育む」には「大事に育てる」というニュアンスがあります.私は「老いを育てる」というより,「老いを育む」という表現のほうがよいのではと思っています.老人の背景を考えてみますと,プラス面としては豊かな経験に裏づけられた知識と生活の厚みがあり,マイナス面としては心身の機能の低下が挙げられます.まず,医学面からみた老化について述べてみます.
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