連載 老いを育む・第11回
老いと死
柏木 哲夫
1
Tetsuo Kashiwagi
1
1淀川キリスト教病院
pp.382-383
発行日 2021年4月15日
Published Date 2021/4/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.5001202475
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老いと死
以前,日本老年社会科学会から「ホスピスの働き」について講演を依頼されたときのことです.私の講演の次に,ある老人福祉施設の施設長の方が「老いと死」という題で講演されました.出だしのところがとてもおもしろかったので,紹介します.こんな出だしでした……「私の施設では,老いと死は日常生活の現実です.なのに,入所者はあまり老いや死を語り合うことをしません.私はもっと話し合うべきだと思っています.そこで数人で散歩中のご老人に追いついて,『オイオイ(老い老い)』と声をかけたら,みんな横を向いてしまいます.昼食後,数人のご老人が談笑しているので,『今日は死について話し合おう』と思って,少し話しはじめると,みんなが人差し指を唇に当てて『シー(死)』と言います」……という感じです.
老いと死は,できれば考えたくないテーマなのかもしれません.老いは避けることができます.老いる前に死ねば,老いは避けられます.しかし,死は絶対に避けることができません.医師で小説家のサマセット・モームが残した言葉に,「世の中には多くの統計があり,時には統計のまやかしや間違いも存在する.しかし,絶対に間違いがない統計がある.それは<人間の死亡率は100%である>という統計である」というのがあります.この世に生を受けた者は誰一人の例外もなく死を迎えます.老いを避けることはできますが,死を避けることはできません.
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