自己自身として生きるために/人間学的断想・10
‘老い’について
谷口 隆之助
1
1元:八代学院大学
pp.261-265
発行日 1977年4月25日
Published Date 1977/4/25
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1663907089
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現代文化のなかの‘老い’
現代人は一般に,老年ということをどう考えているであろうか? それはもちろん,個人によってさまざまに異なるであろう.けれども,総じて現代文化は,老いということをまともに考え,まともに引き受けて生きるには,まったく適していないと言ってよいと思う.現代文化は,現代文化の仕組みに直接に役立つものにしか価値を認めようとしないからであり,そこでは肉体の衰えた老年はほとんど無価値と同じに見なされているからである.老いが無価値と見なされているから,大半の現代人は老いることをできるかぎり拒否しようとするのであり,できるかぎり老いまいとするのだと言ってよい.むしろ老いることを恐れているのである.現代では,老(ふ)けこむことと年をとることとがまったく同じこととしてしか考えられていないのであり,豊かに深く老熟していくというようなことはまったく忘れ去られてしまっている.それだからこそ,老年ということを単に拒否しようとするのである.
しかし,これは人間としてまったく不自然な状況だと言うべきである.というのは,若いということも老いということも,それだけの状況として言うならば,それは人間におけるきわめて自然的な推移であり,また自然的な状況であるからである.
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