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編集後記
江藤 文夫
pp.1202
発行日 2018年10月15日
Published Date 2018/10/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.5001201492
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障害では環境要因が重視されるが,生活活動における移動に関連した議論において,遠距離を自動車や新幹線等で移動する国ばかりではなく,ロバや象などの動物が重要な移動手段である国もあることを障害統計に関する国際会議で耳にした.今月号の特集は,わが国における身体障害のある方の自動車運転である.自動車の直訳英語はautomobileと思うが,「クルマ」という呼称は歴史を反映して英訳も単純ではない.
さて,身体障害のある方の自動車運転の普及では,めずらしく日本でも欧米同様に当事者の頑張りの果たした役割が大であった.1960年(昭和35年)の道路交通法の制定以前には,警察官には運転できない改造自動車で走り回り,たびたび逮捕された豪傑もおられたようである.1936年(昭和11年)に運転免許を取得し,自動車運転を仕事とされていたF氏は1953年(昭和28年)に事故で両大腿切断を受傷された.クラッチ車しかない時代に,右手でクラッチとブレーキ,断端でアクセルを操作する装置を考案し,免許の更新期限の1956年(昭和31年)に改造車を持ち込んで実際に運転できることを示したが,法律の壁に阻まれ免許は失効したという.以来,免許制度の改正を訴え続け,道路交通法の施行前に国立身体障害者更生指導所に入所し,運転免許を取得したそうである.ただし,同所で正式に自動車運転訓練を開始したのは1961年(昭和36年)からである.1962年(昭和37年),F氏は長野県のリンゴ園を改造して障害者のための教習所と作業場を開設した.これが,身体障害者教習の草分け東園自動車教習所の始まりである.
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