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はじめに
前回は,整形外科疾患を中心に,母指の機能的な再構築を第1CM関節に的を絞り,対立運動の確保と内転拘縮の予防の2つに焦点を当て,徒手的治療法を紹介した.今回は,これらの徒手的治療法の理論的な背景を示していきたい.
指(5つのdigits)の中でも,母指は機能解剖学的にも,その指の中での役割を考えても独特であり,他の手指(fingers)とは異なった親分的な存在感を示していることはすでに触れてきた.そして,その機能的な基盤が第1CM関節であることについても少し触れてきた.
Ebskov1)は,第1CM関節について興味深い見解を示している.彼は第1CM関節は,解剖学的に分類するとその骨構造から鞍関節ではあるとしている.これは,他の多くの研究者が述べていることで,皆さんも周知の通りである2〜5).しかし彼は,機能的にみると第1CM関節は,関節運動の自由度から球関節(a ball-and-socket joint)だと述べている.これは,Tubianaら6)が第1CM関節を“universal joint:万能関節(多自由度の関節)”と表現していることにもつながる.さらに,Hollisterら7)は長軸的にMacConaillら8)のいう自動回旋(conjunct rotation)が起こり得ることも示唆している.
Tubianaら6)がこのように述べるのは,解剖学的な裏づけがある.第1CM関節の軟骨は厚く,関節包は厚いが緩く,大きな可動性を有するのである1,2,9).そして緩い関節包は手の作用時,特に強いつまみやにぎり動作においては,この関節を取り巻く靱帯の働きや筋の作用によって補強される3,6).
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