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編集後記
江藤 文夫
pp.616
発行日 2016年6月15日
Published Date 2016/6/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.5001200607
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前世紀に予想されたごとく,近年になって脳機能の解明に必須の脳科学の進歩は加速されている.それでも,異なる地域や人種間の共通理解を言葉により促進する手法の開発を含めて「はじめにありき」言葉の理解は容易ではない.精神機能や認知機能ではなく,わが国では高次脳機能という用語が普及したのは,その障害者への支援サービスにおける行政的取り組みの影響も大きい.行政サービスでは対象を規定する必要があり,モデル事業を推進するために高次脳機能障害を定義した.今月号の特集は,行政用語を離れ,学術的視点で脳機能障害について論じられている.われわれの知識は,いまだ脳不全あるいは脳機能不全という用語が使用され難い程度の理解に止まっていると理解すべきであろう.
寳珠山氏は,最先端の脳と心の科学の知識に基づき,作業療法における脳機能の知識の有用性と意義について,わかりやすく解説されている.わが国の臨床現場では,脳画像診断が普及していることから,宮本氏による解剖学領域と機能局在の整理とその利用法の解説は,OTの日常業務と密接である.そして,太田氏が半側空間無視,能登氏らが失行,早川氏らがいわゆる前頭葉症状,高橋氏が失語といった代表的な症状と障害に対する作業療法について,事例を基に実践的な知識として解説されている.熟読しても疑問が晴れるとはかぎらないかもしれないが,現象と障害の成り立ちを正確にとらえ,評価して対応を計画するときに必ず役立つことが期待される.
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