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私が大学で担当する作業療法概論で毎年,入谷忠宏さん(AJU自立の家 障害者ヘルパーステーション「マイライフ刈谷」所長)に講義をしていただいている.入谷さんは中学生の折に病気により四肢麻痺となり,長期の入院生活を余儀なくされた.管理された病院生活が精神もむしばみ,自立への意欲を奪っていくというお話しを聞くと,学生たちはショックを受ける.そして自立生活を決意し,長期の自立訓練を受け,アパートを借りた.複数のヘルパーを雇い,電動車いすを駆使して所長業務をこなし,車椅子サッカーにチャレンジし,踊りでボランティア活動を行っていることを聞くと,感嘆の表情を学生は示す.入谷さんの表情を見ながら自立とは何かを考え出す.入谷さんは,強制的にひきこもりにさせられていたことになる.感じる主体は患者であった入谷さんなのに,管理する側は何の痛みを感じることなく規則で縛っている.今でいうパワハラである.河本のぞみ氏は,連載「当事者に聞く 自立生活という暮らしのかたち」第1回の中で,水島秀俊さんの場合を通して,水島さんが「施設を出るということ」を体当たりの取材を通して明らかにしている.驚くほど詳細にである.入谷さんと共通するのは,あくなき自立生活への意志であった.
実は,強制的なひきこもりと感じたのは,今月の特集であった.特集は2つ組まれ,第Ⅰ特集に作業療法と脳科学という魅力的な大きなテーマの中の,精神障害領域を,第Ⅱ特集にひきこもりが組まれている.ただ,脳科学でまとめきれなかったのが,ひきこもりであると思う.鶴見氏の稿から,ひきこもりの実態調査が実は不十分で推定値は省によって異なることを知り驚いた.それだけ,ひきこもりは放っておかれ,対策は後手に回っていると思った.とにかく難しいのだ.忍耐,忍耐のアプローチ.成功する目途が立たない日々のアプローチが待っている.しかしながらOTは,果敢に現代の難題に挑んでいることが実感できた.OTジャーナルでは初めてのひきこもりの特集.意義は大きいと思う.そして,強制的にひきこもりにさせている社会システムに対しても,十分な問題提起がなされなければならないと考える.
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