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以前は,臍から下の手術はできるだけ脊髄くも膜下麻酔(脊麻)で行っていた。ところが今は,これまで脊麻でしていた手術も全身麻酔(全麻)で行うことが増えた。その理由はいくつもある。薬や機器が発達し,全麻の安全性も,覚醒の質も早さも向上した。そして抗血栓療法が普及した。患者と術者の考え方が変わり,どちらも眠っていることを好むようになった。施設によっては,医学的な理由ではなく,大人の事情により全麻件数を稼ぎたい上層部の圧力に晒されているかもしれない。また,麻酔科医の興味は末梢神経ブロックに向かい,学術集会や雑誌で脊麻について語られる機会は減った。脊麻には目新しい薬も機器もない。しかし脊麻が,今も麻酔科医にとって必須の技術であることは変わらない。
実は新しい話題もある。地球環境への負荷は全麻より脊麻のほうが桁違いに低いことも,意識すべき時代である。そんな脊麻を再考する本徹底分析シリーズでは,超音波診断装置のさらなる活用,うまく使えば面白い等比重ブピバカイン,グッと脊麻の幅が広がる麻薬の添加,普及していなかった全麻との併用と小児への適用と持続脊麻,そして議論が尽きない再穿刺を取り上げた。また,あまり目にしていない読者がいるかもしれない段差針とサドルブロックの話題も加えた。脊麻についてこれほど盛りだくさんな特集は,近年ない。脊麻を見直し,麻酔科医としての引き出しを増やし,安全で快適で無駄のない診療の助けとしてほしい。
「さいこう」は「とっても好き最高」と「古くからあるが再考」の掛詞(かけことば)で,2021年8月号「硬膜外さいこう」と2022年12月号「声門上器具さいこう」の続々編である。この「さいこう」シリーズでは,教科書には書かれていない実際の手技について,全執筆者に共通質問を行うのが恒例である。今回は,読者諸氏が「よそではどうしているんだろう?」と尋ねてみたい,以下の七つの質問に,理由も含めて答えてもらった。
Q1 穿刺体位は右下? 左下? 座位?
Q2 ペンシルポイント針や段差針は使う?
Q3 傍正中法はどんなときに?
Q4 若手が入らなくて交代したときにしていることは?
Q5 麻薬併用はどんなときに何をどれだけ?
Q6 効果不十分なら再穿刺する? その穿刺高と薬液量は?
Q7 認知症や脊損患者の効果判定は?
全国のエキスパートたちの回答からは,表面的な手技だけではなく,考え抜かれた知恵や,経験にもとづいたこだわりや,深い哲学を読み取れる。しかも,全員が同じ回答ではないことにも注目したい。噛めば噛むほど,いや読めば読むほど味わいは深く濃くなる。
新しい脊麻の世界に「さ,行こう!」
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