徹底分析シリーズ 麻酔における臓器障害への対策 ②—研究から学ぶ臓器保護
人工呼吸における肺保護対策—至適な1回換気量とPEEPを求めて
吉田 健史
1
Takeshi YOSHIDA
1
1大阪大学大学院医学系研究科生体統御医学講座 麻酔集中治療医学教室
pp.766-771
発行日 2022年8月1日
Published Date 2022/8/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.3101202309
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人工呼吸管理法の変遷
人工呼吸管理の臨床意義が最も顕著に示されたのは,おそらく1952年,コペンハーゲンでのポリオ大流行時であろう。人工呼吸管理を行うことで,ポリオによる麻痺に罹患した患者の死亡率を80%から40%にまで軽減させた1)。こうした明らかな利点が示されている一方で,人工呼吸管理自体が,肺傷害を悪化させ死亡率を増加させる一因になることが示されている2)。この概念を人工呼吸器関連肺傷害ventilator-associated lung injury(VALI)と呼ぶ。
VALIの理解が深まるにつれて,急性呼吸促迫症候群acute respiratory distress syndrome(ARDS)に対する人工呼吸管理の概念に大きな変化がもたらされた。つまり,人工呼吸管理の目的が,「呼吸仕事量を最小限にしつつガス交換を最適化すること」から,「VALIを最小限にしつつ生命を維持するために最低限のガス交換を保つこと」へと変化したのである。例えば,低い1回換気量で行えば高二酸化炭素血症となり,呼吸性アシドーシスによる頭蓋内圧亢進の危険性が上がる。一方,高い1回換気量で行えば高二酸化炭素血症は是正されるが,肺傷害の危険性は増す。
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