徹底分析シリーズ 術後認知機能障害
巻頭言
坪川 恒久
1
1東京慈恵会医科大学 麻酔科学講座
pp.41
発行日 2018年1月1日
Published Date 2018/1/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.3101201030
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- 文献概要
高齢者の麻酔管理の術前診察をしていると,本人もしくは家族から「手術して入院が長くなると呆けませんかねえ」と聞かれることがある。これに対して,「大丈夫です,麻酔でそういうことは起きません」と胸を張って答えられるほどのエビデンスを今現在,われわれは持ち合わせていない。認知機能と一口に言ってもさまざまな機能が含まれているし,本人は,その低下に気が付かないことが多い。ましてや麻酔科医が患者に接している短時間に認知機能低下をみつけることはさらに難しく,よほど積極的かつ確実に認知機能の検査をしなければ,まず見つけられない。しかも,認知機能検査の多くは習熟を要し,実施するにしても時間がかかる。また実際に記憶などの検査を行ってみると,こちらは答えを促しているつもりなのに,「バカにしているのか!」と怒り出す患者さえいる。術後認知機能障害は,麻酔科医の間ではホットな話題であり,学会でも必ずプログラムが組まれるが,忙しい麻酔科医が詳細な認知機能検査を日常的に実施することは現実的ではない。実際にスクリーニング検査も含めて検査をしている人は少ないだろう。そこで本徹底分析シリーズで,認知機能に関する話題を集めた。つかみどころのない印象のある術後認知機能障害ではあるが,一人でも多くの読者が興味をもち,エビデンスを作る側になってもらいたい。そして願わくば,それらのエビデンスにより「麻酔で認知機能障害が起こることはありません」と胸を張って説明できるようになってほしいものである。
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