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私たち麻酔科医は,術前に患者に対して麻酔の説明を行い,麻酔を請け負う。その時に患者は,当然のこととして“全身麻酔中は意識がない”ことを期待している。ところが,これまでの報告では,“術中に意識があり,そのことを記憶している”術中覚醒記憶は0.2%程度の発生率であることが示されている。つまり,日本の年間全身麻酔件数約500万件から計算すると,年に1万人ほどの患者が術中覚醒記憶を経験していることになる。無視できるような数ではない。また,これら術中覚醒記憶の経験者は,高率に外傷後ストレス障害(PTSD)を含めた精神的な後遺症に悩まされることが知られている。何としても予防しなくてはならない。しかし,術中覚醒記憶を100%抑制する麻酔薬・方法はいまだ確立されておらず,“意識”や“記憶”の確実なモニターも存在しない。このような状況下で,私たち麻酔科医はどうすべきであろうか。
本徹底分析シリーズでは,まず,術中覚醒記憶の現状,危険因子,麻酔薬,モニターの利点・欠点などについて,各領域のエキスパートである3人の麻酔科医(森本先生,西川先生,増井先生)が解説している。術中覚醒記憶の転帰として最悪と考えられるPTSDに関しては,精神科医の飛鳥井先生にお願いした。PTSDは治療可能であり,丁寧かつ長期間の術後フォローアップにより術中覚醒記憶を経験した患者を確実に見つけ,早期に精神科医にコンサルトすることの重要性を示されている。また,万が一訴訟になる可能性については,鈴木弁護士に執筆を依頼した。鈴木先生は,“(ヒューマンエラーは論外であるが)標準以上の医療が行われていれば,訴訟となる可能性は非常に低い”ことを示されていて,われわれとしては大変心強い。お二人とも“患者の話に誠実な態度で耳を傾けること”の重要性を強調されている。麻酔科医にとっては苦手な分野かもしれない。
本徹底分析シリーズが,皆様の知識の整理に役立ち,日本の術中覚醒記憶の発生率を少しでも低下させることに役立つことを願っている。
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