症例検討 ターニケットを用いるとき
巻頭言
坪川 恒久
1
1金沢大学医薬保健研究域医学系 麻酔・蘇生学
pp.887
発行日 2013年9月1日
Published Date 2013/9/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.3101101921
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- 文献概要
「ターニケットペインを腰部硬膜外麻酔で完全に抑えられないのはなぜか?」という質問をある先輩麻酔科医からいただいたのは昨年末だった。そこからターニケットについてあれこれ調べ始めると,ターニケットに関する研究が意外に少ない。いまだにターニケットの駆血圧,許容できる駆血時間,再駆血する場合のインターバルの時間などに関する明確なエビデンスは形成されていない。それでも,ターニケットを使用する手術は毎日予定され,実施されている。
人工膝関節全置換術(TKA)は,ターニケットを用いる代表的な手術である。今回はこの手術を中心に症例検討を組んだ。TKAを受ける患者は背景に循環器疾患をもっていることが多く,ターニケットの駆血,解放による循環動態の変動は避けたい。また,TKAといえば,深部静脈血栓塞栓症の高リスク群であり,ターニケットの使用は肺血栓塞栓症の発症とも関連してくる。
ターニケットペインに関しては,まず実際に味わってみようということで,自分の足にカフを巻いてみた。解放時も含めて4種類の痛みがあるとコラムに書いたが,あまりの痛みに30分あまりでギブアップしたため,肝心の3番目の痛みに関しては,ほんの入り口しか味わえなかった。高用量のオピオイドを使っても抑えきれないほどの痛みなのだから,私が弱いわけではないと思う。麻酔中の患者は私のようにギブアップすることはできない。麻酔科医は,声にならない声に耳をすまさなければならない。
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