徹底分析シリーズ “エビデンス”に立ち向かう
エビデンスはあてはまらない—研究の母集団は目前の患者を代表するか?
桑島 巖
1
Iwao KUWAJIMA
1
1東京都健康長寿医療センター
pp.1030-1033
発行日 2016年11月1日
Published Date 2016/11/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.3101200699
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Evidence-based medicine(EBM)の概念が,1991年にカナダのゴードン・ガイアットGordon Guyatt,デイビット・サケットDavid Sackett両医師によって提唱されて以来,瞬く間に医療界に広まり,それまでの経験や実験にもとづく医療を大きく変えた。
心臓病の治療に関していえば,心筋梗塞後の症例や心不全の症例では絶対禁忌とされたβ遮断薬の少量投与が,心不全の予後を著しく改善することが大規模臨床試験1)によって証明されたことで,今や心筋梗塞や心不全の標準治療薬として定着している。また,エンカイニドやフレカイニドなどの抗不整脈薬は,一過性に心室性期外収縮は抑制しても長期的には突然死をもたらすことが大規模臨床試験CAST2)で明らかになった。このように心臓病治療を,心臓をいかに長持ちさせるかという保存療法へと変化させたことは,大きな功績である。また,漫然と処方されていた医薬品がEBMの時代になり,臨床試験によってプラセボに比べての有用性が証明されず市場から姿を消した例も多い。
しかし一方において,EBMには,当初から懸念されていたことがあった。臨床医がエビデンスを批判的に吟味することなく金科玉条のごとく盲信することで,企業の販売戦略や政府の健康施策に利用されるという懸念である。
さらに,EBMの概念が登場した当時の予想をはるかに超える高齢化社会の到来により,個人差が大きい高齢者医療には,必ずしも適応できなくなっているという問題も生じている。
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