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はじめに
“ホルモン補充療法(hormone replacement therapy : HRT)の米国初の大規模臨床試験が乳がん発病の危険性が高くなるとして中止されることが決まった”という,一般的なHRTの中止ともかかわりかねない衝撃的なニュースが2002年7月9日付米誌ニューヨークタイムズ,7月10日の朝の読売新聞をはじめとする各社の新聞報道にて報じられた.詳細は7月17日発刊のJAMA―Expressで“Risks and Benefits of Estrogen Plus Progestin in Healthy Postmenopausal Women, Principal Results from the Women's Health Initiative Randomized Control Trial”のタイトルで発表された1).そのWHIの結果を表1にまとめた.
0.625 mgの結合型エストロゲン(CEE,プレマリン(R))と酢酸メドロキシブロゲステロン(MPA)2.5 mgの合剤(Prempro, Wyeth Ayerst)を1個ずつ連日服用した8,506人の女性とプラセボを連日服用した8,102人の女性が比較検討された.2002年5月31日,平均5.2年の使用期間の後,効果・副作用が検討され,安全管理委員会は侵潤性乳がん発生が停止境界線を超えたことと,全体的にリスクが利点を超えたとして,本臨床治験の中止を勧告した.しかし本臨床治験の乳がん相対リスクは1.26としており,欧・米におけるこれまでの相対リスクとそれほど変わっておらず,さらに日本産科婦人科学会生殖内分泌委員会(1997年4月~2001年3月)で調査させていただいたHRTの乳がん発生への相対リスク(95%信頼区間)は1.403(0.973~2.024)である.一方,米,英,カナダでは最近の数年間,乳癌検診,治療の進展によるものとは考えられるが,乳がんによる死亡率は低下しはじめているところであり,HRTを行う大方の医師にとってこれらは既に織り込み済みのことである.これらのことから本治験の乳がん発生の相対リスク上昇は中心的な問題でないと考えられる.
最も大きな問題は冠動脈性心疾患の相対リスクの上昇である.これまで多くの基礎・臨床研究でエストロゲンあるいはHRTが高脂血症を改善し,動脈硬化を予防し,心血管疾患を予防あるいは治療し得るものとして期待されてきた.ところが1998年のHERS Study2)で,冠動脈性心疾患を有する患者に上述のHRTを平均4.1年投与したところ,再度の冠動脈性心疾患の予防,すなわち2次予防ができなかったことが報告された.今回WHIの報告で健康な(?)閉経後女性に同薬が平均5.2年投与され相対リスクが1.29となり,冠動脈性心疾患の予防,すなわち1次予防ができなかったし,かえって悪影響があることが報告された.このことが最も大きな治験中止理由と考えられた.このWHIの結果が日本人にもあてはまるかについて次に論じる.
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