症例検討 肺水腫
巻頭言
角倉 弘行
1
1順天堂大学医学部 麻酔科学・ペインクリニック講座
pp.1135
発行日 2015年11月1日
Published Date 2015/11/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.3101200430
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- 文献概要
麻酔科医の最も大切な役割は,周術期を通して患者の重要臓器(脳)に酸素を届けることである。これが達成されていないと,いくら手術がうまくいっても,術後鎮痛が完璧でも,責任を果たしたとは言えない。通常は,気道確保が成功して循環動態が保たれていればこの目的は容易に達成されるが,もし肺で十分な酸素化ができなくなると,目的の達成は途端に困難になる。
肺水腫は,周術期のあらゆる段階で発生し,その原因はさまざまである。術前からある心原性肺水腫や神経原性肺水腫の麻酔管理を依頼された場合は,腕の見せどころである。一方,術中に再膨張性肺水腫などが発生した場合は,鑑別診断と治療を同時に行う必要があり,麻酔科医の力量が試される。さらにやっかいなのは,術中の過剰輸液による心原性肺水腫や,抜管後の陰圧性肺水腫など医原性の肺水腫が術後に生じた場合で,麻酔科医は面目を失ってしまう。
一般的に沈黙の臓器といえば肝臓を指すが,肺も常日頃はなんの文句もいわずに黙々と酸素化を達成し,麻酔科医の手柄に貢献してくれている。臨床で時折遭遇する肺水腫は,このような肺への感謝と敬意を忘れた麻酔科医へのささやかな抵抗かもしれない。本症例検討を通して肺のありがたみを再認識し,肺のご機嫌を損ねないような管理法を再確認してほしい。
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