特集 現代医学・生物学の仮説・学説
1.細胞生物学
細胞運動:筋収縮
丸山 工作
1
1千葉大学理学部生物学科
pp.424-425
発行日 1993年10月15日
Published Date 1993/10/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.2425900596
- 有料閲覧
- 文献概要
概説
筋収縮の機構については,H. E. Huxley,J. HansonとA. F. Huxleyによる滑り説(1954)が長い間有力であった。すなわち,サルコメア内の中央に固定されたミオシンフィラメント※にそってアクチンフィラメントが両側から滑り込むとする説である(図1)。電子顕微鏡像,X線解析,張力測定は,すべてこの方向性をもった2種類のフィラメント間の相対的滑りを支持した。しかし,このことが実証されたのは筋肉ではなく,植物のフラスモ細胞ゲル層に方向性をそろえて並んだアクチンフィラメント上をミオシン分子をつけたプラスチック小球がATPで滑走することによってであった(Spudichら,1985)。図1のように,もしミオシンフィラメントが固定されていないと,ミオシンはアクチンフィラメント上を反矢じり方向に移動する。滑りの方向は,アクチンフィラメントの方向性(ミオシン分子が結合してできる矢じり構造から判定される)によっている(図1)。
問題は,滑走運動の仕組である。直接のエネルギー源がATPであり,ミオシン分子の頭部にATPase活性のあることから,ミオシンが化学エネルギーを機械エネルギーに変換することによって,アクチンフィラメントを動かすものと考えられた。A. F. Huxley(1957)は,ミオシン頭部が首振り運動してATP1分子の分解ごとにアクチン1分子を移動させる“首振り説”を提出した。
Copyright © 1993, THE ICHIRO KANEHARA FOUNDATION. All rights reserved.