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平滑筋細胞の収縮機序に関する研究を遡ると,1960年代の平滑筋から抽出したアクトミオシン系がCa2+により活性化されるという江橋らの研究に辿り着く1)。1970年代に,同じく江橋らにより,骨格筋と心筋の収縮弛緩機序がトロポニンCを介してCa2+により制御されることが確立した。すなわちトロポニン(T,C,I)の発見により骨格筋,心筋の収縮弛緩機序は見事に解明された2)。しかし平滑筋の場合,細胞内Ca2+受容蛋白はトロポニンCではなくカルモジュリン(CaM)であり,Ca2+-CaMによりミオシン軽鎖キナーゼ(MLCK)が活性化され,ついでミオシン軽鎖(MLC20)がリン酸化,そしてミオシンATPaseが活性化し収縮が発現する(ミオシン側からの制御)ことが1980年代になり明らかとなった3)。そして,ミオシンホスファターゼによるミオシン軽鎖の脱リン酸化によりミオシンは不活性型となり,平滑筋は弛緩する4)。しかし,血管平滑筋細胞(VSMC)のアゴニストによる収縮は初期のphasic相とこれに引き続くtonic相であり,前者ではMLC20のリン酸化と収縮との間に一定の相関関係が見られるものの,後者ではMLC20は脱リン酸化されているのが通常である。従ってVSMCの収縮はミオシンのリン酸化,脱リン酸化機構のみでは説明できない。
最近の研究により,VSMCの収縮弛緩の制御には,骨格筋と同様アクチン側からの制御や新しいCa2+流入経路,新しいCa2+放出調節機序,MLCKの感受性の調節機序などが次々に明らかにされてきた。Ca2+は筋の収縮をはじめ受精から細胞死に至るまで多彩な生理機能を果たす。さらに最近の研究により,VSMCにおいても異なる刺激によるCa2+シグナルが異なる遺伝子発現とそれに引き続く転写を引き起すという5)。このように多彩で複雑なCa2+の生理機能を考察する時,種々の刺激により引き起されるCa2+濃度の細胞内上昇が一様に起こるとは考えにくく,その時間的空間的研究は重要である。さらに,これまで知られている細胞内へのCa2+流入経路やセカンドメッセンジャーであるIP3のみでこれらの複雑な生理機能が営まれているとは考えにくい。また[Ca2+]iの上昇とは無関係に収縮が引き起こされることも明らかにされてきた。このように,最近20年間のVSMCに関する研究の進展には著しいものがある。
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