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あとがき
酒井 邦嘉
pp.1152
発行日 2025年10月1日
Published Date 2025/10/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.188160960770101152
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私は数年前に,パリ市内のロダン美術館に行ったことがある。元々は,18世紀に建てられたロココ様式の美しい館だったが,20世紀初めにはアパルトマンとなり,オーギュスト・ロダンが気に入って晩年のアトリエ兼住居とした。フランス政府がその地所を買い上げるときに,ロダンが自分の作品と美術コレクションを遺贈することで,国立の美術館として生まれ変わった。ゴッホの代表作である《タンギー爺さん》も,その代表的なコレクションだ。
数々の見事なブロンズ像や塑像の中で,今なお忘れられない作品がある。《大聖堂 La Cathédrale》と名づけられた高さ60cmほどの石灰石の彫像だ。一見するとアルブレヒト・デューラーの《祈る手》を大きくしたように見える。しかし,手のひらの間が妙に空いており,手首より下が交差している。気づけば,どちらの手も右手なのだ。二人の右手どうしが交錯して,ちょうど触れ合う瞬間を活写したようでもある。

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