連載 私が休日に出会った本・2
ハリー・ポッターに出会った日
加納 佳代子
1
1八千代病院看護部
pp.159
発行日 2001年2月10日
Published Date 2001/2/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1686902326
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洋服を買うにしても,本を買うにしても同じなのだけれど,それらは私に買われるのを待っていて,「ここよ,ここ,私はここにいるわ」と呼ぶ。夫は,そういう私の衝動買いの言い訳を聞いて,「自分の思い込みと行動を正当化するいつものたわごと」と称する。そんなこと言ったって,私は書店に立ち寄って,あの溢れるような紙の山から選んでくるのだから,それはやっぱり運命的な出会いなのよと,買ってきた本を積み重ねて読む順番を考える。
私の父も,そうやって嬉しそうに本を脇に抱えて家に帰り,休日に寝転んでながめ,枕もとに山積みし,雪崩を起こしそうな本の中でうたた寝をしていた。「こんなに買って,いったい,いつ読めるのよ」と母がこぼすと,「いいんだよ,定年になったらゆっくり読むんだから」と言っていた。整理されているわけではないので,何冊も同じ本があった。小さな庭の3分の1を使って蔵書用のプレハブを建てたが,重すぎて床が落ち,頑丈に改築して,やっと本を入れたのも束の間,父は脳梗塞で亡くなった。
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