連載 病院管理フォーラム
■虐待防止・2
出会ってしまったからには…
加藤 雅江
1
1杏林大学医学部附属病院医療福祉相談室
pp.510-511
発行日 2007年6月1日
Published Date 2007/6/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1541100960
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●虐待症例が教えてくれたこと
小児科病棟のデイルームを,5歳になるその男の子はくるくる,くるくる走り回っていた.体も頭も汗ばんで,頬も赤みが差している.自分の体を持て余し,走ることで何かを消耗しようとしているような,走ることで何かを吸収しようとしているような,そんな切なくなるような走り方だった.「ちょっとお休みしてご本を読もうか」と声をかけ,抱きとめようとした時,彼は触れられるのを拒み,大きな声で威嚇し始めた.5年間の彼の苦しみを絞り出すような声で.
正確には,彼は母親のおなかにいる時から虐待を受けていたことになるので,その歴史は6年に及ぶものになる.妊娠し胎児が男の子であることがわかった時,母親は泣き叫び,膨らんだそのおなかを壁に打ち付けていた.驚いた外来のスタッフから連絡を受けて,母親に声をかけたのがこの事例との出会いである.
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