焦点 臨床看護に関する研究の動向と今後の課題(Ⅲ)—20世紀から21世紀へ向けて
急性期患者のケアに関する研究の動向と今後の課題
井上 智子
1
1東京医科歯科大学医学部保健衛生学科
pp.443-450
発行日 2000年12月15日
Published Date 2000/12/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1681900580
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はじめに
高度経済成長に裏づけられた医療技術のめざましい発展や人々の健康意識の向上により,我々はかつてない長寿を手に入れた。しかし,ほんの数十年前までは,結核,赤痢,腸チフスなどの感染症・伝染病が人々の健康を脅かし,生命を奪うものであった。これらは当時の致死的疾患の代表的なものであり,発症や経過が急峻で死に至るプロセスも苛酷であったため,言いしれぬ恐怖と無力感を人々にもたらしていた。したがって当時の急性期看護は,生死の闘いを,それも決定的な治療法の乏しい中での患者の生命力を支えるケアであったといえる。
感染症に代わる今日の病とて,脳卒中や心臓病などその発症や転帰が激烈なものは少なくない。また今日の事故や災害は,それまでは考えられなかった規模や悲惨さをもたらす。加えて侵襲的治療(手術,化学療法,放射線療法など)の適応の拡大は,医原的急性期(治療のために人為的にもたらされた急性期)とでも称すべき事態の増加を招いている。このような背景の中で,急性期看護の役割は新たな局面を迎えている。
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