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はじめに
過失の有無にかかわらず,助産師が何らかのアクシデントに直面したとき,その助産師をサポートする目的は,当該助産師が,助産師である自分から逃げるのではなく,そのアクシデントに向き合っていけるようにすることにある,と筆者は考えている。そして,ここでいう「助産師である自分から逃げない」という言葉には,アクシデントから教訓を得て,それを乗り越え,助産師の仕事を続けていくという意味が含まれている。裏を返せば,遭遇したアクシデントについて負うべき責任は助産師としてしっかり受け止められるようなサポート体制を整えることが,当該助産師を支えるうえで重要な要素であると筆者は感じている。
インシデントも,アクシデントも,その後の再発防止について,非常に有益な示唆と学びを与えてくれるものである。仮に事故に遭遇した場合でも,その経験から,チームが事故の防止策を練り,そしてそれが実行されれば,当事者スタッフは,アクシデントがチームの学びになったと感じることができるであろう。また,インシデントやアクシデントを契機として,システムや環境が改善されれば,そのことも,当事者の大きな支えとなるのではないだろうか。
このようにアクシデントに向き合い,取るべき責任が何であるかを明らかにし,アクシデントをチームの学びに変えていくためには,アクシデントに関する事実を詳細に知ることが必要である。特に,アクシデントを起こしたスタッフがそのアクシデントを乗り越えていく過程では,第三者の力を借りながら,事実を詳細にしていくことが必要になると筆者は考えている。事故に直面した助産師に対するサポートは,この事実を詳細にしていくプロセスの段階から始まっているのである。
本稿では,アクシデントに直面した助産師と筆者自身の体験を振り返り,その助産師が,事故の事実を詳細にしていくプロセスと,事故当事者に必要とされるサポートがどのようなものかを考えてみたい。
なお,本稿ではアクシデントの詳細を紹介していないため,読者は,未消化感をもたれるかも知れない。しかし,事実を詳細に述べることは,事柄の性質上,かなりの勇気が必要なことであった。特にこの事例に関してのご家族の反応は,記事にするための了解を得ることが難しいため,全て割愛した。
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