随想=私の出会った患者
死に直面したカトリック信者
村田 清
1
1市立伊勢総合病院
pp.711
発行日 1982年8月1日
Published Date 1982/8/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1541207815
- 有料閲覧
- 文献概要
私が大学から地方の病院へ初めて赴任したのは昭和24年で,食料,燃料,衣類などは簡単に手に入らないころであった.その病院の職員に熱心なカトリックの信者のAさんがいた.着任直後より私の妻は,雪の多い冬を越すための食料や燃料の買い方,貯蔵の方法,また闇米を買う経路などをAさんの奥さんから教えていただいたおかげで,早く落ち着くことができた.その後も親しくお付き合いしていたために,Aさんの家庭のことがよく分かり,ご夫婦ともに熱心なカトリック信者で,貧しい人や困った人のために献身的に面倒を見ていることを,妻から聞かされて感心していたのである.
今でも忘れないのは,私の家にもよく来た,ぼろ布や新聞紙などを買いに来る「くず屋」のおばさんのお産が近づいたと聞かされて,衣類や綿布の手に入らないときなので,自分の家のもので「おしめ」や産衣を作って,お産のときはそれを持って母子の面倒をみに行ったことである.自分の家にも手の掛かる小さい子どももいるのに,困っている人のために世間体など気にせず,自分の仕事と考えて,喜んで世話をするご夫婦には,町内の人も皆一目も二目もおいていたのである.
Copyright © 1982, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.