特集 「対話」がひらくリスクを超えた関係
防衛的産科医療(Defensive Obstetrics)を超えるもの
三砂 ちづる
1
1国立保健医療科学院疫学部
pp.488-492
発行日 2003年6月1日
Published Date 2003/6/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1665100538
- 有料閲覧
- 文献概要
- 1ページ目
One man's defensive medicine is another man's risk management, Clements, 1991
(ある人はそれを防衛的医療とよび,ある人は同じことをリスクマネジメントとよぶ)
「安全性」と「快適さ」
いつごろから出産の「安全性」と「快適さ」が拮抗する概念のように言われ始めたのだろうか。厚生労働省の提唱する「すこやか親子21」でも「安全性と快適さの確保」が主要な課題になっている。具体的な話になると,「安全性をあげれば,快適さを奪ってしまう」「快適な環境にすると,安全性が損なわれる」という議論がされているが,この前提は,どこかおかしいのではないだろうか。
日本以外の国の議論を見ていると,「根拠に根ざした医療なのか,慣習のままにやっている医療なのか」あるいは,「自然出産志向かどうか」ということは問題になっているが,「安全性」と「快適さ」の拮抗が議論になったことはない。医療の分野は,そもそもより高い「安全性」を求めているのは当然なのであって,「安全性」を犠牲にするような「快適さ」など議論するまでもない,つまり「快適さ」と「安全性」とは,はかりにかけることはできないものだと考える。医療の世界の議論なのであるから,よもやフランス料理や,贅沢な部屋などを「快適さ」と言っているはずはないのであって,「女性がよりよい状態」であることができるようなことを「快適さ」といっているのだろう。そして,それがより「安全性」を高めるために,プラスに働くものであることは,「根拠に根ざした医療」によって示されている。
Copyright © 2003, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.