連載 あの人の思い出カバン・10
強さと,先見性と,優しさと,有言実行の保健師―カバンの持ち主:堀井とよみさん(元水口町)
村中 峯子
1,2
1社団法人全国保健センター連合会企画部
2東京大学大学院医学系研究科
pp.50-57
発行日 2009年1月10日
Published Date 2009/1/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1664101130
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琵琶湖の南,武士の世の面影を残す草津宿本陣を,さっき通り過ぎてきたからだろうか。堀井とよみさん(写真,表)が紡ぐお話に耳を傾けていると,少しの予断も許されなかった戦国の世の物語を耳にしている気がしてくる。強く,けれども,力まかせではない戦略と先見性。張るべき布陣は抜かりなく,腹を括るべきときは,しっかりと覚悟を決めて戦に挑む。違うのは,この物語が国取りのために武力で押し倒すそれではなく,地域に暮らす人々が幸福で安心できるシステムをつくり上げるために,話し合い,力を合わせ,諦めることなく築きあげてきた道のりであること。
そして,私はもうひとつ知っていることがある。駅まで私を出迎えに来てくださるまでの,堀井さんの細やかな心配り。先々を考えた,さりげない優しさ。初対面の私を,しっかりとみるまなざしは,まるで,すべてをお見通しのよう。「お世辞や社交辞令は,邪魔なだけ」「ウソは通用しない」。そういうオーラがみなぎっている。相手にそう感じさせるすべてが,1人の女性のなかにある。気迫に押された小気味よい緊張のなかで,堀井さんの物語に誘われていく。自分を繕っている場合ではない。限られた時間のなかで,全身を耳にする。心のなかの真剣を抜く。戦うためではなく,自らを研ぎ澄まし書き留めていくために。
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